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《12》
優からあらかじめ頼まれていたのだろう。
俺が頷く前から準備をしていたらしい女子に囲まれて、俺は鏡を睨んでいた。
「トッシー、もっとにこにこしてよー!せっかく可愛くしてるんだからー」
俺の顔をキャンパスにして、化粧をしていたクラスメイトの百合子が頬を膨らませてブラシを振り回す。
「可愛い訳あるか…。俺は今、鏡に映ったバケモンと戦ってんだよ…」
「まぁ、確かにちょっと可愛い男の娘とは違うかもね~」
俺のセーラー服の襟を直していた亜希に言われ、俺はずーんと落ち込む。
「当たり前だろ…」
「でもでもぉ、ほら、大和くんは喜んでくれるかもぉ!今日の夜とか盛り上がっちゃったりしてー!キャーッ、トッシーのえっちー!」
「…えっちなのはお前の、脳内だろ。お前位ポジティブだったら人生楽しいだろうな」
「でも、可愛いよ!似合わないのに、大和くんの為に、頑張って女装してるのが良いんじゃない!」
「わかる~」
俺の落ち込みを余所に盛り上がる女子達に、乾いた笑いが漏れる。
良次が喜ぶどころか、俺の女装ときたら酷いもんで、百年の恋も一瞬で冷める出来栄えだった。
どんなにクラスの女子が総動員で手伝ってくれたとしても、元がガタイの良い、厳つい目つきの悪い大男に女装は厳しかったと思い知らされる。
鏡に映っているのは、女装というか、最早化け物だ。
何故、俺は優に詰め寄られた時に頷いてしまったのだろうか。
生まれてきた事を後悔するレベルだった。
こんな姿、とてもじゃないけど良次に見せられないから、正直良次が運営や裏方で忙しいと聞いた時には心底ホッとした。
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