292 / 346

《14》

「これ、7番テーブルにお願いトッシー」 「へーい」 最初はこんな姿を人に見られるのは大分抵抗があったけど、よくよく周りを見渡せば、男子全員が女装している空間だ。 勿論、早く時間が過ぎる事を願ってはいるが、クラスの他の男子も同じ様な格好をしている事が、少しだけ心強い。 それに。 良次がいない間に頑張って働けば、良次の役に立てるかもしれない。 何よりも、俺のモチベーションはその一心を糧に保っていた。 そう、言われた飲み物を指示されたテーブルに運ぶまでは。 「……………………え?」 「…………………………は?」 思わず、漏れた声に振り返った相原と目が合うまでは…だ。 「……………な」 何やってんだお前…! パクパクと声にならない相原の口元がそう動く。 その向かいに座っていた志水が、呆然と突っ立っていた俺の手から飲み物をテーブルに移す。 「ありがとう」 「あっ、あっ…」 マジで最悪。 よりにも寄って知り合いに見られるなんて。 「いやぁ、どんな事やってるのかなーって立ち寄ったら、こんな可愛い子が接客してくれるなら来た甲斐があったなぁ、ね、相原」 「…………お前、マジで言ってんの?」 爽やかな笑顔でたちの悪い冗談を言う志水に対して、相原の顔は大分引き攣っていた。 勿論、俺の顔もだ。 「早くコレ飲んで出るぞ、志水」 あ、そうか。 相原が俺から視線を逸らしたのを見て、思い出す。 学校では、俺達が知り合いなのは秘密なんだっけ。 相原のよそよそしい態度に、納得する。 てっきり馬鹿にされるかと思っていたけれど、相原は堪えた様で低く呟く。 いや、きっと後で馬鹿にはされるだろうけど。 そう考え至って、結局俺は途方に暮れた。

ともだちにシェアしよう!