324 / 346
paradox~良次視点~
「あいつが、ただの親友だと思ってるとは限らないけどな」
呟いて、ステージの上の利久の親友とやらに視線を送る。
この歓声の中、渦中のその眼差しは利久だけを捕らえている。
いかにも大衆受けしそうなラブソングは、全て片想いの心情を綴った歌詞だ。
ずっと利久への想いを歌に乗せ、紬続けてきたのだろう。
あからさますぎて、実に滑稽で笑える。
こんな茶番を繰り返しているのに、利久には毛の先程も伝わってはいない。
俺の呟きを聞き逃したらしく、利久は目を瞬かせていた。
わざわざあいつの想いを教えてやる義理はない。
一度、利久とあいつが話しているのを見掛けた事があった。
あの時はまだ、利久とつき合う前だった。
あの時の、あいつの目。
あれは、親友に向けるには、あまりにも熱をもっていた。
利久に対して恋愛感情があるのなんて、一目瞭然だった。
利久の方は全く気づいていない様だったけれど。
例え、利久が親友と思っている相手だろうと、
利久は、俺だけのものだ。
心も、身体も。
恋敵らしき相手が、俺達に視線を釘付けられているのを確認して、
俺は利久の手を取った。
牽制しておくに超したことは無い。
教えてやるだけだ。
お前のお飯事みたいな恋は、もう終焉なのだと。
ともだちにシェアしよう!