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paradox~良次視点~

「あいつが、ただの親友だと思ってるとは限らないけどな」 呟いて、ステージの上の利久の親友とやらに視線を送る。 この歓声の中、渦中のその眼差しは利久だけを捕らえている。 いかにも大衆受けしそうなラブソングは、全て片想いの心情を綴った歌詞だ。 ずっと利久への想いを歌に乗せ、紬続けてきたのだろう。 あからさますぎて、実に滑稽で笑える。 こんな茶番を繰り返しているのに、利久には毛の先程も伝わってはいない。 俺の呟きを聞き逃したらしく、利久は目を瞬かせていた。 わざわざあいつの想いを教えてやる義理はない。 一度、利久とあいつが話しているのを見掛けた事があった。 あの時はまだ、利久とつき合う前だった。 あの時の、あいつの目。 あれは、親友に向けるには、あまりにも熱をもっていた。 利久に対して恋愛感情があるのなんて、一目瞭然だった。 利久の方は全く気づいていない様だったけれど。 例え、利久が親友と思っている相手だろうと、 利久は、俺だけのものだ。 心も、身体も。 恋敵らしき相手が、俺達に視線を釘付けられているのを確認して、 俺は利久の手を取った。 牽制しておくに超したことは無い。 教えてやるだけだ。 お前のお飯事みたいな恋は、もう終焉なのだと。

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