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《10》

「アレで会場の女の子達皆良次の虜なんだから、やってらんないわ」 「…うん」 きっと、今の俺も、あの女子達みたいな顔をして良次の事を見つめているんだろうと思った。 「小野部の感想は?」 「…良次って、声もかっこいいんだな…」 心から自然と出た俺の言葉に、優が吹き出す。 「ハハッ。何だよ、それ」 「こんなに上手いと思わなかった…。良次ってやっぱり凄いな…」 「はいはい、ノロケ御馳走様で~す」 良次の瞳は、ずっと俺を捕らえてる。 最初に出会った小さな王子様の慈愛に満ちた優しい眼差し。 良次の家で再会した時の氷の様な冷たい眼光。 それを思い出していた。 そして、今、情熱的な視線に、俺の心ごと絡め取られている。 どれも全部、俺のものだ。 良次の心も、体も。 全部一人占めしたい。 皆に慕われている人気者の良次に、自分なんかが烏滸がましいかもしれないけれど。 思う位なら許されるだろうか…。 こんな独占欲が自分の中にあるなんて知らなかった。 良次の歌声と視線に酔いしれながら、優の揶揄う声も、どこか遠くで聞こえている様だった。 俺はライブが終わるまで、ずっと良次の事を見つめていた。

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