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《11》
「良次…!」
ライブが終わって、ステージから降りてきた良次に駆け寄ろうとすると、遮る様に良次のファンの女子達が押し寄せる。
「…あ」
良次が見えなくなってしまう…。
そう思った矢先、
「利久…!」
良次の手が、俺の手を掴む。
女子達に囲まれてしまう前に、器用に間をすり抜けて、俺の手を引く。
「行こう、利久」
「…え?え?」
周りの歓声にはまるで興味がない様に、出口へと歩を進める良次に引っ張られる形で後を追う。
「あーあ…、打ち上げどうすんだよ…、まぁ良いか…」
後ろから優の声が聞こえたけれど、良次は振り返らなかった。
「良次…?どこまで行くんだ?」
「帰る」
「え!?か、片付けとか、良いのかよ?」
「他のヤツらに任せてある」
いつの間に…。
「どうだった?」
「………へ?」
人影がなくなった辺りで、それまで早足だった良次の足が急に止まる。
それに習う様に、俺も立ち止まる。
「惚れ直してくれた?」
「…………」
さっきまで、少しの物怖じもせず堂々としていた良次なのに。
俺の答えを待っているだけの表情が、あまりにも真剣で、思わず笑ってしまった。
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