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《12》

「うん、惚れ直した」 俺が答えると、良次は一瞬だけホッとした様な顔をした。 「あんなに歌が上手いとは思わなかったし、カッコ良かった…」 「…あいつよりも?」 「あいつ…って、勇介の事…?」 尋ねると、良次が頷く。 良次にしては随分と子供っぽい問いかけに、内心苦笑いしてしまう。 「俺が、1番カッコイイって思ってんのも、夢中なのも良次だけだよ…」 良次が満足そうに笑う。 それを見て、俺まで満たされた気持ちになる。 「ずっと、これからも、俺の事だけ夢中でいて」 「…うん」 目の前の綺麗な顔が微笑む。 それが、こんなに幸せだなんて。 『ひーちゃん、泣いちゃう位辛い事の後にはね、必ず幸せが待っているのよ?』 俺は、いつかの母さんの言葉を思い出していた。 「もう着替えちゃうの?」 「当たり前です~。こんな格好で外歩ける訳ねぇだろ」 更衣室に辿り着いた俺の後ろから、不服そうな声が聞こえる。 「…勿体ねぇ………」 「うわぁぁ!?」 思わず、叫び声を上げてしまう。 何故なら、良次の手の平が俺の尻を撫でたからだ。

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