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第10話
リニューアルオープンの前日に恭平有給を取って泊まりに来た。手伝ってくれるらしい。
しかも「広告の写真撮りたい」と言われた。
「恭平が撮るの?まじで?」
「俺上手いとよ?」
明日の準備は鈴木も居るから広告用のパンを焼くことにした。
粉をこねてたら「俺もやる」と恭平。
「やれんの?」
「やれるよ?おじさんに教えて貰うたことあるし、お前がなかなか帰って来んけんおじさんとおばさん寂しそうでさ、飯くいがてら教えて貰ってたと」
「マジかよ」
「一時期真剣におじさんの弟子になろうかと考えた事あるし」
「へ?」
それには一護は驚いた。
「だって、おじさんの代で終わるの嫌やし」
「そっか、ありがとう」
「素直にお礼言われるとこそばいかぞ!」
「はあ?人が素直になれば」
イラとして文句を言う一護の唇にちゅっと軽くキスをする恭平。
「ば、」
一護は顔が真っ赤になる。
「なあ、何時になったらお前抱けんの?」
「こ、こんなとこでお前は!!」
「俺、まだ待てくらってるんですけど?」
ちょくちょく恭平は家にきてくれて、でも、キス止まり。家に母親がいるから。
「母ちゃんおるし」
「じゃあ、俺の部屋なら良か?それともラブホ?」
「お、お前、さっさと、こねろ」
顔が熱い。文句でも言わないとこの場から逃げたくなる。
すると恭平は一護の後ろから手を出して一護の手に自分の手を絡めながらこねていく。
「こういうコネ方じゃなくて」
「お前に触りたいだけ」
耳元にふぅと息をかけられる。
「恭平!!」
彼の方を向いて文句を言おうとしたらまたキスされた。
本当にコイツは盛りがきた犬かよ。
でも、逆らえない。
唇が離れると「催事終わったら恭平の部屋にいく」と言ってしまった。
催事まで忙しいからきっと疲れてそれどころじゃない。
「まじか!!約束したからな」
恭平は子供みたいな笑顔になって、ちくしょう!可愛いなって思ってしまった。
◆◆◆
リニューアルオープンは大繁盛だった。
朝から焼いたパンが午前中になくなり、追加を焼きまくった。
恭平も頑張ってくれた。
父親に習ったって言っただけあって上手いし、正直助かった。
母親も嬉しそうに接客していて、ほとんど中で作業してた一護だが楽しそうな声が聞こえてきて安心した。
また元気になってくれて本当に良かった。
閉店時間にはパンは全て売り切れ。
作業場で鈴木、恭平と一護の3人でぐったりと座り込む。
「久しぶりにたくさん焼くと疲れるなあ」
腰をとんとんしながらも嬉しそうに言う鈴木。
「俺は楽しかったなあ」
恭平は満足そうだ。
「3人ともお疲れ様。売上最高だったわよ」
母親が作業場に現れ、どっさりと袋に入った品々をテーブルに置く。
「なんこれ?」
一護はその品々を見る。
「お客さんからの差し入れ」
「えっ?全部?」
テーブルに置かれた様々なものはドリンク剤からお菓子やら食べ物やら色々。
「皆、オープン嬉しいって一護にあげてって」
母親は嬉しそうに一護に差し入れを押し付ける。
「恭平とおっちゃんにも」
一護はドリンク剤やら恭平と鈴木に平等に分ける。
「お前人気もんじゃん!こりゃ催事も成功したも同じやな」
「ちょ!決めつけんなよわかんないだろ?」
「あ、一護の会社の人達も来てたよ、あんたによろしくって」
「えっ?マジで呼んでよ」
話をした上司がオープンには買いに行くって言っていたので本当にきてくれたんだと感動した。
「忙しそうやったもん」
会社に差し入れしようかな?と一護は思う。
「さて、明日の仕込み手伝うよ」
恭平は両手を上げて背伸びする。
「えっ?いいよ、疲れてるだろ?お前明日仕事だろ?」
「明日も有給とった」
「はあ?お前……」
呆れ顔で言うが内心は嬉しいのだ。
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