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第11話

8月はあっという間で百貨店にパンフェスの広告が大々的に載り始めた。 電話でのやりとりや催事用の粉や容器類の発注は慣れている鈴木がやってくれたし、恭平が何かと間に入ってくれたので問題なく進んだ。 「マネキンの手配とかはやっておくから」 「マネキン?」 突然の聞きなれない言葉に一護はキョトンとする。 「販売のプロの事だよいっちゃん」 鈴木が教えてくてた。 「販売する側にはバイトとマネキンっていてね、バイトは金銭授受とかまあ、そこそこの接客できるけど、それ以上は望めないんだ、あと時給安いから使いやすいけど、本格的に売上取りたいなら時給高いマネキン雇った方がいいよ、マネキンは販売のプロでね、すごい人になると実演から販売までできて、しかも売上作るの上手いんだ」 「へえ、なんか凄いね。催事ってそんな大変なの?」 「慣れればどうって事ないよ、レジ打ったりする事もあるけど、今回の催事はちゃんとキャッシャーいるし、あ、レジ打つ人ね。レジにお金持っていけば打ってくれるシステム。自分らでレジ打って入金までする百貨店もあるけどね」 恭平にも説明されて、本当に親父はすごいなあって思う。 催事するまでにも色々と説明会にいったし、挨拶回りもした。 そりゃ俺にかまう暇無いよなって改めて父親の忙しさを実感できた。 ◆◆◆ 搬入の日、恭平が手伝いにきた。 「お前、自分の仕事は?」 「大丈夫、百貨店には他にも人いるし」 「でも、特別扱いみたいなのは嫌だよ?」 「いいんだって、十五夜をまた催事に引っ張り出せた俺は特別扱いなんだよ」 「はあ?何それ?」 「明日になればわかるよ」 恭平は笑う。 百貨店に仕事で入るのは初めてだ。裏口から荷物運んで、カゴ車に乗せてエレベーターに乗り込む。 客として来る百貨店の裏の仕事をやっていると思うと不思議だ。去年はまだ東京に居て面白くない毎日を過ごしていた。ここに帰ってきてからまだほんの数ヶ月なのに都会の年数より濃くて楽しい。 この楽しい日々は恭平と会ったからだ。彼がパン屋になれと言われなかったらきっとここでも腐っていたに違いない。 催事会場は8階。細い通路を抜けて会場入りする。 他の業者達が既に搬入をしているのが目に入る。 その中の1人が「泉ちゃーん!どこいってたんだよ」と恭平に手を振る。 「あ、ホントだ泉ちゃん久しぶり」 他の業者も恭平に手を振る。なんか、凄く友好的な感じで恭平は人気者なのかな?と一護は感じた。 「あれ?そっちの子って」 「あ、十五夜の跡取り息子ですよ」 「えっ!!シゲちゃんのか」 その会話で作業していた他の人達の手が止まり一護は一斉に注目を浴びてしまった。 何?なんだよ?と困惑しながら会釈するとワラワラと周りに集まってきた。 「シゲちゃんの息子か!似てねえなあ、シゲちゃんが言うのはホントだったな、俺に似てなくてイケメンってやつ」 初めに恭平に声をかけてきた年配の男性ががははと笑った。 「シゲちゃん……惜しい人亡くしたよな」 急にしんみりとなる男性と「えっ?シゲちゃん亡くなったの?いつだよ!」と驚く人。 一気にざわつき初めてしまった。 「だからここ1年見なかったんだ……」 そういってじわりと涙を浮かべる人や、既にぐすぐす泣いている人。 「葬式いったんだよ俺、途中で我慢できなくってさ」と言っている人。 「そっか、シゲちゃんの息子……パン屋やるんだ、よろしくな」 父親くらいの男性達が一護に挨拶してくる。 「シゲちゃん息子とパン屋やりたいってずっと言ってたからなあ。きっと喜んでるな」 「そうそう、シゲちゃん息子の話ばっかしてたからなあ」 その会話を聞いてえっ?と思った。 「言っただろ?おじさんお前の話しかしないって」 恭平に頭ポンポンされた。 「さて、仕事仕事!!ほら、みんなも群がってないで仕事!」 恭平がみんなを蹴散らしてくれた。 「十五夜の場所はここな!一等地取るの大変だったんだからな」 恭平に案内された場所はど真ん中。 「列んでもいいようにこっち側に何も置かなかったんだ」 「えっ?列ぶとか、そんなプレッシャーやめろよ」 他の業者の店名みると有名店が多い。 東京の有名店やテレビに取り上げられている店。 それに勝てるわけがない。 「お前、十五夜舐めんなよ!あと、おじさんの力も舐めてんじゃねーぞ!」 急に真顔になられ一護はビビる。 「こら、泉、何凄んでんだ」 バシッと後ろから誰か恭平を丸めた紙で叩いた。 「部長、不意打ち止めてくださいよおお!!」 恭平の言葉で、えっ?部長?と一護は緊張して直立不動になる。

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