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第15話

地下駐車場へいくと鈴木がワゴンでパンを搬入してきた。 「おはようございます、すみません鈴木さん」 一護は降りてきた鈴木に頭を下げる。 「おはよう。いっちゃん、休みなしでやってるけん、気にせとき」 「それは鈴木さんもでしょ?」 一護はワゴンの後ろのドアを開けながら言う。 「ちゃんと休んでるよ、あ、おはよう恭平」 鈴木は恭平にも挨拶する。 「おはよう。ほい、運ぼうぜ」 恭平はカゴ車に荷物を移す。 ◆◆◆ 「一護、マネキン3人頼んでるからお前は自分の作業に没頭できるからな」 恭平に言われて「えっ?3人も?」と驚く。 「うん、3人。休憩もあげないとダメやし、3人はいるよ、十五夜は1年振りに催事に登場するけん少ないくらいだ、後は俺と別のスタッフが対応するけん」 「えっ?えっ?大袈裟やない?」 一護は戸惑う。 「いっちゃん、パンだって足りんくなるかもやけん、恭平に任せんしゃい。追加で作れるように用意しとる、ここでも追加作れるように電気の量ば言うとるよ」 鈴木がパンを販売台に並べながらに言う。 えー……そんなに?と一護は戸惑いまくり、パンの量だって店で販売するよりもかなり多い。余るくらいが良いのだろうけど余ったらどうしようって思う。 従販ってやつができるって恭平言ってたなあ。売れ残ったらそうするか?なんて真剣に考えていた。 ◆◆◆ 時間はあっという間という言葉通り、いつの間にか8時過ぎくらいになっていて周りが更に騒がしくなっていた。 「なあ、取り置きできん?」 誰かが恭平に話しかけているのが一護の耳に入る。 「できるんなら俺もほしか!」 「えー、ずるい!そしたら私も」 と何やら騒いでて一護が顔を出すと周りの業者が十五夜のパンの前で騒いでいた。 「どうしたん?」と恭平に声をかけると「十五夜、売り切れるけん取り置きしたいってさ」と恭平は振り向き言う。 残るかも知れないと思っていた一護は「えっ?構わないけど」と喜んだ。 すると「まじで!!」と周りにひとが集まってしまった。中には朝会った警備員さんや昨日声をかけてくれた年配の業者までいた。 「う、うん」と迫力に押された。 「一護、足りんくなるかもばい?」 「そいなら俺が追加つくるけん」 恭平に言われて一護は答える。 「まあ、彼らも十五夜の客だしなあ」 「そうばい泉ちゃん、俺らの特権ってやつばい?」と年配の業者。 「えーと……」年配の業者の名前を思い出そうとする一護に「とくちゃんでよかばい。シゲちゃんにそげん呼ばれよった」と笑う。 「ありがとうございます」と一護はとくちゃんにお礼を言う。 ◆◆◆ 9時過ぎて恭平が手配してくれたマネキンが出勤してきた。結構年配の女性だったので一護は大丈夫かな?と心配した。 「泉ちゃんおはよう」 「おはようみっちゃん、江藤さん、藤田さん」 恭平とマネキン達は仲良しなのか親しそうだ。 「十五夜の店長の一護だよ」 恭平に紹介されて一護は頭を下げる。 「いやあ!!ほんと、イケメンやーん!噂通り!シゲちゃん言いよったもんねえ、ジャニーズに入れるってほんとやん」 年配かと思われた彼女らは一気に少女みたいにはしゃぐ。 「十五夜をまた始めてくれてありがとうね。大変やろうばってんうちらは嬉しいとよシゲちゃんも喜んでる」 「うん、シゲちゃん息子とパン屋するの夢言うてたもんねえ、こうやってやってくれるとやったんやけん早う死なんでも良かったとに」 「ばか!そげん言いなんな、シゲちゃんが1番残念なんやけん」 彼女らはそう言って涙ぐんでいる。 昨日のとくさんもそうだ。昨日会った人達も父親の為に死を惜しんで泣いてくれるのだ。これだけでどれだけ父親が愛されていたのかわかる。

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