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第16話

「ありがとうございます」 一護は彼女らに深々と頭を下げた。 本当にありがとう。親父のパンを愛してくれて。親父を愛してくれて。 「よかよ」 彼女らはニコニコ笑って、その後はショッパーやら備品やら持ってきてくれて雑用を手伝ってくれた。 「あれ?そういえば1人遅番じゃ?」 3人一緒にきたのでふと疑問に。 「ああ、気にせんでよかよ、勝手に来たっちゃけん、パンば買いたかったし」 「サービス残業ってこと?それはダメですよ!払いますから!」 一護は慌てる。サービス残業とか申し訳ない。 「よかよか」 女性3人は一護の話を聞いていないみたいでパンを見て美味しそうだの、これ好きだのはしゃいでいた。 まあ、給料払う時に計算すれば良いか……とそれ以上は言わなかった。 朝礼が始まり、人が増える度に十五夜の前にも人がくる。 皆、子供みたいなキラキラした瞳でパンを見ているから嬉しくなる。 「な、皆待ってるって言ったやろ?」 恭平が隣にきて笑顔で言う。 「うん、ビックリした」 「お客さんも待っとーけん!今日は頑張ろうな」 恭平に頭をグリグリ撫でられて一護は笑顔になった。 緊張していたけれど恭平が居れば大丈夫。 ◆◆◆ 「泉くん、下に人が集まってるよ、たぶん、列できるからベルトパーテーションと最後尾の札居ると思う、人をそっちに派遣するね」 黒いジャケットを着た女性が恭平にそう話しかけている。 「あー、番号配った方が良いかもですね」 「分かった、それも用意しとくね」 恭平と女性がそんな会話をしていて一護はそんなに人が居るんだと少し他人事だった。 10時開店と共にドドドドっと地響きがしてきた。 一瞬、地震かと思った。 「くるよ!」 マネキンのみっちゃんと呼ばれていた年配の女性が他の2人を見る。 「おう!来やがれ!」 2人も声を揃えて構える。 すると、地響きと共に駆け込んでくる沢山の客。 えっ?と一護も一瞬たじろぐ。 「走らないで下さい」 百貨店のスタッフが声をかけるが駆け足の客達が一斉に十五夜のブースに集まってきた。 「嘘やん」 一護は思わず言葉を漏らした。 あっという間に人の波が十五夜を囲む。 マネキンの3人は凄いスピードで計算をして袋に詰めていく。レジもフル回転になり一護はとりあえず、パン作らなきゃな……と今の状態を飲み込めずにいた。 「十五夜舐めんなって言うたやろ?」 ブースで客の整理をしている恭平の声が聞こえた。 確かにと思った。 「いっちゃん、ぼーってしとらんで追加作らんば間に合わんばい」 鈴木に言われて「はい!」と作業に入る。 持ってきたパンが凄い勢いで売れていく。 正直怖いと思う。えっ?こんなに売れるの?と戸惑いも。 恭平がベルトパーテーションを列にそってセットしている。他のスタッフが最後尾と大きく書かれた看板を手に「最後尾こちらでーす!みなさん、並んでください」と叫んでいる。

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