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第17話
なんと列はブースを1周回って階段3階分下まで列んだのだ。
「こりゃ午前中に売り切れるな」
鈴木がボソッと言う。
恭平が戻ってきて在庫確認をして「一護、たぶん、午前中に売り切れると思うから追加できるか?午後から番号札配るから」と言う。
「う、うん大丈夫」
「じゃあ、最後尾から番号に切り替える」
恭平はバタバタと走っていき、若いスタッフに指示している。
「恭平ちゃんすげーだろ?」
鈴木が笑顔で言う。
「うん」
「十五夜を有名にするって催事の仕事についたんだよ、パン職人はきっといっちゃんがやってくれるって思って」
「えっ?そうなの?」
そんな会話をしていると「一護ちゃんお客さん呼んでるよ」とみっちゃん呼ばれた。
顔を出すと「あれぇ、おばあちゃんきてたの?」と鈴木が年配の女性に声をかけた。
その女性が一護を呼んだみたいだ。
「そげんですたい、十五夜が催事にでるってテレビで見てね、待ちきらんで朝一番で来たとよ」
「熊本からやろ?ばあちゃんありがとう」
鈴木と年配女性の話をきいた一護は驚いた。
「えっ?熊本からなの?」と声が出た。
「そぎゃんですばい!鶴屋にもきてほしかばってん十五夜さんは人気あるもんね、シゲさんはきとらすと?」
年配女性の質問に一護は少し戸惑いながら「あの、父は去年亡くなりました」と答えた。
「え……シゲさん?えっ?なんで?」
一護と年配女性の会話を聞いていた周りもざわつく。
「えっ、亡くなったんですか?十五夜くるっていうからおじちゃんも来るかと思ってたのに」
若いヤンチャそうな男性が言う。
「うそ、本当に?」
他の客もざわついて……熊本からきたという女性は涙をポロポロ流したので一護は狼狽える。
「そうね、シゲさん……もう会えんとな?そいけん十五夜さんはしばらく催事でんかったんか」
「すみません」
一護は女性に謝る。
「そしたらお兄ちゃんが一護くんね?」と聞かれた。
「はい」と答えると「そうね、パン屋さんしてくれるとね、ありがとうね。シゲさん一護くんの話ばかりしよらしたよ、バスケ上手いとか勉強ができるとか自慢ばっかり、小さい頃にパン屋さんになるって言うたとやろ?作文かなんかのコピーばシゲさん大事そうにもっとらしたよ?息子に恥じないように立派なパン屋にならんばって」
女性はハンカチで涙を拭きながらに言う。
「ああ、早う息子が大きくならんかな?一緒に催事に出たかっていつもうるさく言いよった、もうちょっと長生きしたら夢叶ったとになあ」
後ろにいた年配男性も涙ぐみながら言う。
「兄ちゃん、頑張れよー!俺、買いに来るけん!負けんなよ」
「私も生きてる内は来るけん、一護くん頑張り」
女性は一護の手をギュッと握ってそういった。その手は凄く温かい。
他にも鹿児島からきたという人や岡山の人もいた。
「人気もんやね一護ちゃん」
みっちゃんに言われて一護は照れながら笑う。
「ありがとうございます」
全員に言いたいけれど、手を休めるわけにはいかず一護は作業に戻る。
「あら、あんた仕事は?」
みっちゃんの声がする。
「十五夜が来てるとやもん、仕事どげんちゃよか!」
みっちゃんと同じ年齢くらいの女性が笑いながら答えている。
「一護、列にあと少しで終わるけん、あとは番号にする」と恭平が戻ってきた。
「あら、泉ちゃん」
みっちゃんと話していた女性が恭平に手を振る。
「知り合い?」
「あ、マネキン会社の人」
「へえ……」
「一護、良い事教えてやろうか?」
「なに?」
「マネキンさんがリピーターになる商材って美味いって保証つくとぜ?」
「はい?」
一護はキョトンとする。
「彼女らは美味しいものばかり食べてるけん、舌が肥えてるんよ、マネキンがリピーターになるとその商材は売れるって言われてる。独特のネットワークもあるし」
「そうなんや……」
「まあ、客にもわかるけどな」
「うん、さっき、熊本から来たって人がいたよ」
「えっ?ばあちゃんきてたんか」
「恭平も知ってると?」
「常連さん、他にも九州全部から来てると思うけど?凄い人は東京からくる人もおったな……って一護?」
恭平は俯く一護の顔を覗き込むと自分が首にかけてたタオルを頭から被せると頭を撫でた。
一護が泣いていたから。
「十五夜舐めんなって言うたやろ?分かったか?俺が言うた意味」
一護は無言で頷く。
「あの人……父ちゃんが死んだっていうたら……泣いてくれて……他の人も」
「うん、おじさん慕われてたからな。十五夜は美味しいのもあるけど、おじさんの人柄もあるけん」
恭平の言う通りだ。
十五夜舐めんな……って確かにそうだ。
こんなにもあちこちから人がきてくれて、父親が死んだと伝えると泣いてくれるのだ。
こんなにも愛されているのなら……そりゃ外に仕事いくよな?お客さんに会いにいくよな?と一護は思う。
恭平のタオルで涙を拭く。でも、止まらない。
葬式でも泣けなかったのになんで今泣いてしまうのだろう?
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