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第7話

 真剣な顔で文字を追っている修司の顔を眺めながら、蓮は少し後悔していた。  小説を書くのを仕事としている相手に自分の文章を読まれるなんて、よく考えると恥ずかしくて顔から火が出そうだ。    ちゃんと面白かったって伝わるかな。がっかりされたらどうしよう。  蓮は落ち着かない気持ちを紛らわすように、麦茶で唇を湿らせた。 「やばい。……すげえ嬉しい」  読み終えたらしい修司から呻くような声が漏れた。  はっと顔を上げると、修司は口元に手を当ててうつむいている。 「蓮、文章うまいな。多分書いた俺以上に話を読み取ってるし、ちゃんと読んでくれたのが伝わってきたから嬉しい」 「良かったー……変なこと書いたら笑われるんじゃないかって心配でした」 「笑うかよ。どんな反応でも、『面白かった』でも『つまんなかった』でもありがたいんだよ。それに感想なんて貰ったの久しぶりだからさ。余計に」    そう言って蓮を見つめると、修司は照れくさそうに笑った。 「ありがとう。これ、大事にするな」 「は…い」  胸がほわりと温かくなって、今度は蓮がうつむく。たったレポート一枚でこんなに喜んでくれるなんて。本当に良かったと心の底からほっとする。 「あの、他の本も読んでみてもいいですか? また感想伝えますから」 「ありがとう」    そう言って修司は立ち上がると、本棚の片隅から文庫本を抜き取って蓮に差し出した。  タイトルは『落下する青』と『夜の向こう』。 「とはいえ、やっぱ知り合いに読まれるの恥ずかしいんだよな……。パラパラ―っと適当に流してくれればいいよ」 「なんでですか! ちゃんと読みますって」  ムキになる蓮だったけれど、修司が楽しそうに笑うから、からかわれていると分かっていても許してしまう。  俺、この人といるの好きだな。  蓮が口元を緩めたその時、玄関のドアを手荒に叩く音が響き渡った。 「向井いるー!?」  突然外から聞こえた野太い大声に、修司が眉をしかめながらも声を張り上げる。 「開いてるから入って来いよ! ……相変わらず声でけえな、あいつ」 「お客さんですか?」  慌てて立ち上がりかけた蓮を制すると、修司は意外な答えを返した。 「二階に住んでる奴」

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