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第11話
ずしんと胸が重い。このまま地面にめり込んでしまいそうだ。
蓮は家への帰り道を、足を引きずるように歩いていた。修司は、男も恋愛対象になるかもしれない。けれどもう恋愛なんてしたくないと、はっきり言った。
それだけ過去の思い出が、修司の心に根深く傷をつけているのだろう。
……苦しいな。蓮は自分の長く伸びた影にぽつりと呟く。
ふわふわ舞い上がるくらいに幸せだと思えば、たった一言であっけなく叩き落される。
逃げだしたいくらいしんどいのに、それでも相手の心が欲しいと願う。
――どうして好きになっちゃったんだろう。
今までしてきたどの片思いより苦しくて、心がちぎれそうになる。
少しでも可能性があるなら、気持ちを伝えてみたい。けれど同じくらい伝えるのが怖い。
……もし拒絶されたら俺、きっと立ち直れない。
東京に帰る日が近づいてきていた。答えがでないまま、蓮はぎゅっと唇を噛みしめた。
◇◇◇
夏休みが終わるのは、いつもあっという間だ。
「蓮が帰るの、もう明後日か。早いな」
修司がしみじみと呟いた。小さなテーブルの上には、焼き鳥とつまみとビールが並んでいる。送別会だといって修司と嶋が用意したものだ。話すことはいつもと変わらないけれど、その心遣いが蓮には嬉しかった。
「はい。大学始まるしゼミの課題もあるから」
「まじかー。蓮くんいなくなるの寂しいんですけど。なあ向井―」
嶋が缶ビール片手にしゅんと肩を落として見せる。蓮は「嶋さん大げさだ」と笑いながらも、ずっとここにいたい気持ちが湧き上がるのを隠せなかった。
修司に出会って、嶋に出会って、あっという間に過ぎた特別な夏。
「すごく楽しかったです。俺、修司さんと嶋さんに会えて良かった。ほんとに…ありがとうございました」
鼻の奥がつんとして思わず声が震えた。
「……また帰って来いよ。待ってるから」
修司はそう言うと蓮の頭にぽんと手を置いた。大きな手から伝わる体温が優しくて、涙が零れそうになる。
結局告白なんてできなかった。
伝えても、過去の傷が癒えない修司をまた苦しめてしまいそうで。
それでも、今にも溢れそうな気持ちを胸に押し込んだまま帰るのかと思うと、体中が絞られるように苦しい。
次に会えるとしたらきっと冬だ。
修司への想いを抱えたまま過ごすには、あまりにも遠すぎる。
「うわやばい。俺も泣きそう。もうさー今日は飲も? 飲むしかねえ」
「じゃあ……一杯だけ」
嶋に注がれたビールを受け取ると、蓮は涙をこらえながら笑顔で頷いた。
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