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5.「いやいやいや。どっかの漫画かいな」

 そうして、数日が経ち。  土曜日のとあるファミレスにて。 「……」 「……」 「……」  日高は口を開かず、早乙女はニコニコとして、冷や汗をかく伊宮を見ている、というなんともおかしな光景が出来上がっていた。  伊宮はまたも日高に誘ってもらえ月曜日は上機嫌であったのだが、内容をしっかりと見ていなかったのがいけなかった。今日は日高の友達が、自分を紹介して欲しいからと誘われたものであったのだと。  伊宮はまだニコニコと微笑むだけの早乙女に、意を決して話しかける。 「えっと……早乙女君、でしたっけ?」  先程紹介してもらった苗字で呼ぶと、早乙女は「おう!」と元気よく頷く。 「早乙女遥! よろしく!」 「あ、はい。あの、伊宮聖司です。よろしくお願いします」  伊宮はおどおどしながらも早乙女に挨拶をし、「それで」と話を続ける。 「今日は、なんでまた僕を紹介して欲しいなんて」 「うん?  そんなん、ただの好奇心や」 「好奇心、ですか?」  二人が話し始めると同時に、ファミレスの店員が料理を運んできたため、話は一旦中断となる。  日高の前には熱々のステーキと大盛りの白ご飯。早乙女の前にはこれも熱々のハンバーグと少しの白ご飯。伊宮だけは、野菜たっぷりのサンドイッチとお情け程度のフライドポテトだ。  皆口を揃えて、「いただきます」と言ってから料理に口をつけ、早乙女も話を再開させる。 「好奇心の話やけどさ」 「はい」 「ゆっちゃんってさ、見た目こんなんやんか。目つきもひっどいから、いっつも怒ってるなり睨んでるなりで喧嘩売られる顔。そんでこの赤髪やろ?」  早乙女はステーキを頬張る日高の髪をいじると、「触んな」と日高に手をはたかれてしまう。 「あいたー! ゆっちゃん酷いでー」 「食事中」 「そういうとこ真面目〜。好きやよ〜そういうとこ」 「……」  伊宮は二人の絡み合いに、ほんの少しだけ羨ましく感じた。自分は、こんな風に日高と接する事など出来ないからだ。きっと、付き合ってきた年数の結果なのだろうけれど。 「あっ、ごめん、話が逸れてもーた。うん、こーんな容姿やのに、どんな子がゆっちゃんと仲良いんやろなって気になったんやけど……」  早乙女は伊宮の全身をくまなく上から下までジーっと見つめる。伊宮はまた学校帰りのため、制服姿のままやってきているのだが、ジロジロ見られて少しだけ彼から目を逸らす。 「まさかあのエリート校の子やったとは。しかも、こーんな大人しそうな……ね。なーんで、ゆっちゃんと知り合えたん?」  最もな疑問だと思う。傍から見れば、ヤンキーに脅され付き合わされているように優等生にしか見えないだろう。 伊宮は「えっと……」とどこから話すべきかと悩んだ。と、その時。 「コイツとは、去年倒れかけたのを助けたんだよ」  ステーキを食べ終わった日高が、口を開き伊宮の代わりに話し始めた。 「覚えてねぇ? 去年、お前のイベントの付き添いで行った時、途中で別行動したの」  そう言われた早乙女は「うーん、どうやったかなぁ」と首を傾げる。 「まぁ、そん時に。電車ん中でしんどそうにしてたのを介抱してやって。それを律儀に覚えててよ」 「そ、その時。ちゃんとお礼言えなかったから、ずっと後悔してたんだけど。最近、その、たまたま、同じ電車に乗ったのを見かけて……」 「そんで。声掛けて、今に至るってこと?」  早乙女がそう締めると、二人揃って首を縦に振った。 「いやいやいや。どっかの漫画かいな」  早乙女はゲラゲラとお腹を抱えながら大笑いするも、すかさず日高が彼の頭を引っぱたいた。 「うるせぇぞハル」 「だって〜、二人が面白いんやないか〜」 「別に面白くもねぇだろ。で、これで気が済んだか?」 「うん! あんがとね〜、紹介してくれて。でさ! 伊宮君」 「はい!?」  突然自分の名前を呼ばれ、声を裏返しながら返事をする伊宮。  早乙女はそんな彼にニヤニヤと笑いかけながら、こう言った。 「これからは、俺ちゃんとも仲良くしてね」 「……は、はい。こちらこそ、お願いします」  そう言った伊宮だが、正直テンションについていけず「苦手だ」と第一印象で感じてしまった。  のだが。 ◇◆◇ 「あっ……」 「あっ!!」  次の日の日曜日。とあるアニメショップにて。 「やっほー。伊宮君!」 「こ、こんにちは。早乙女君」  二人は会ってしまった。

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