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6.「昨日ぶりやね〜」
「やっほー。伊宮君!」
「こ、こんにちは。早乙女君」
二人がアニメショップで出会う数時間前のこと。
◇◆◇
「おはようございます」
目を擦りながら二階から一階への階段を降り、リビングへと顔を出し挨拶をする伊宮。
「おはようございます、聖司さん」
「……」
「京さん、蒲(ガマ)さん」
キッチンに居たのはメイド服姿の女性とスーツ姿の大柄な男性であった。
京と呼ばれた女性は、艶やかな黒髪をハーフアップにし、髪と同じ黒い瞳を丸眼鏡で隠している。なんとも、典型的なメイドの姿である。
蒲と呼ばれた男性はスキンヘッドに目も開けているのかいないのか分からないほど細い。何も言葉を発さないが、ぺこりと伊宮に礼儀正しく頭を下げている。
「朝食は蒲特性のオムレツ&私特性ジャムトーストセットです」
京がダイニングテーブルに伊宮の朝食を置いた。ふわふわなオムレツに色とりどりのサラダ、そしてこんがりきつね色のトーストの傍には苺ジャムが置いてある。
伊宮は「わぁい」とそこへと座り「いただきます」と言ってから、とても美味しそうにそれらを頬張っていく。
そんな彼の姿を微笑みながら見守った二人は、早速自身の持ち場へと戻り仕事をする。
京はキッチンの片付けに蒲は庭の水やりと手入れだ。
「聖司さん。今日は何かご予定はありますか?」
「うーん、特にないかな。今日は家でゴロゴロしようとは思ってたけど……。京さんと蒲さんは?」
「わっ、私ですか?」
「……」
「うん。家でも暇だから、二人のどっちかに付き添いたいんだけど……ん、なに蒲さん」
蒲は伊宮の隣へ来ると、可愛らしい小鉢に入った小さな花を見せてきた。しかし、その花には元気がないように見える。
「もしかして、今日はこのお花さんを元気にするために出掛けるの?」
答え合わせをすれば蒲は大きく頷いた。
「そっか。でもそれじゃ専門的なものだから、僕が付き合っても邪魔かな」
伊宮が残念そうにすると、蒲もとても残念そうな顔をした。
「じゃあ、京さんは?」
伊宮が京へ話を振ると、彼女は顔をしかめながらとても真剣に悩んでいた。自分のこれからの予定を言いたくないのだろうか。
そんな彼女を心配し伊宮は「無理に言わなくても」と言おうとしたが、「いいえ、聖司さん!」とガシッと彼の手を握る。
「是非一緒に来て頂きたい所があるのです……!」
「えっ?」
◇◆◇
「一緒に来て欲しいって、ここかぁ」
「はい、ここです」
私服姿へと着替えた二人は、とあるアニメの専門ショップへとやってきていた。
「実は私の推しのコンサート応募チケットが付いたグッズが今日発売でして……。そちらが一人二個だったので」
「数増やすためだね」
「はい! ご協力ありがとうございます、聖司さん」
「ううん。こうやって京さんと遊びにこれて嬉しいよ僕」
伊宮は裏表のない満面な笑みで彼女に笑いかける。そんな彼に、京は「聖司さんは天使ですね」となぜか手を揃えて拝む姿勢をとる。
そんな彼女に苦笑いを見せる伊宮。
「それで? 買うものはそれだけ?」
「いえ、他にも買いたいグッズがありまして……伊宮さん、会計まで少し待っていてもらってもよろしいですか?」
「うん、いいよ。僕も久しぶりに来たから、色々見たいし」
「それは良かったです。では、何か買いたいものがあれば今日は私が買いますからじゃんじゃん発掘してくださいませ。では!」
「あっ。……早い。別にそんな事しなくてもいいのになぁ」
伊宮は遠くなる彼女の背中を見守りながら、入口の漫画ゾーンを物色する。
「(何か面白そうなのないかなぁ。たまには、少女漫画じゃないのも)」
と伊宮が少女漫画コーナーから離れ、少年漫画コーナーへと向かえば。
「あっ……」
「あっ!!」
◇◆◇
そうして、今に至る。
「昨日ぶりやね〜」
「ど、どうも」
爽やか青年を思わせるような、彼の内面には思いつかない随分とシンプルな白のティーシャツに黒のパンツな私服姿の早乙女。そんなグイグイと来る早乙女と反して伊宮は後ろへとだんだん下がっていく。
「なんや伊宮君もこういう所来るんやね」
「う、うん。早乙女君も……」
早乙女の持つカゴには多くの漫画やキャラが描かれたキーホルダーが放り込まれている。ジャンルは少年漫画が主体だ。
「ここのお店の方が品揃えがええねん。グッズも沢山売ってるしなぁ。伊宮君は?」
「僕は知り合いの付き添いで……」
目線を早乙女とは合わせず話す伊宮に、早乙女は「ふーん」と頷きながらチラリと自分の時計を確認する。
時刻はもうすぐ十二時を指している。
「なぁ、伊宮君」
「はい?」
「俺ちゃんと一緒にお昼食べへん?」
「……えっ?」
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