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7.「ゆっちゃん、カッコイイ?」

 ポロン 「あら? 聖司さんから……」  京は伊宮から送られてきたメッセージに目を通す。 「なるほど、お友達にお会いになられて一緒にご飯を。この後、聖司さんが行きたがっていたイタリアンを予約しておいたのですが……。お友達とお会いになられたのなら、仕方ありませんね。聖司さんを数増やしにしようとした私にバチが当たったのでしょう。蒲を呼び、ご飯を食べたらケーキを買ってお帰りを待ちますか」  京は少し溜息をこぼすも、すぐさまニコッと口角を上げる。 「最近、聖司さんはお友達と遊んで帰られる事が多いですね。小さな頃からお世話係をしていましたが、良い成長です」  京は伊宮の状況など露知らず、友達といる伊宮の楽しげな姿を思い浮かべながらショップを後にするのであった。 ◇◆◇  そして、伊宮はというと。 「あ、あの早乙女君?」 「ん〜? なぁに、伊宮君」 「ちゃんと着いてくから、あの、服を引っ張らないで」  アニメ専門ショップから離れ、繁華街を歩いていた。いや、歩いていたというよりか無理矢理早乙女に引っ張られながら歩かされているというのが正しいだろう。 「おぉ、ごめんごめん」  早乙女は伊宮の言う事を聞き、彼の袖から手を離した。伊宮は一旦一呼吸をしてから、早乙女の隣を歩く。 「えっと、今から何処へ行くの。早乙女君」 「秘密」 「え、えー」  ニコニコと語尾に音符を付けているかのような言い方をする早乙女に伊宮は呆れしか無かった。そんな彼の顔を見て早乙女は「そないな顔せんとってーな! アハハハッ!」と大笑いする。 「安心してや。別に変なとこなんて連れていかへんて。伊宮君にとっちゃ、ええとこやでぇー!」 「僕にとって、いい所?」  早乙女の答えに首を傾げる伊宮。そんな彼を横目で見ながら「もうすぐやで〜」と話す。  そして、辿り着いたのは--。 「ここ、は」  『紅蓮』というお店であった。 「さぁさぁ入った入った!」 「わっ、押さないで」  早乙女に背中を押され、無理矢理お店へと入ることとなった伊宮。 「らっしゃーせー!」  そのお店に漂うラーメンやチャーハンの匂いの中に。 「やっほー、ゆっちゃん! 二名様ごあんなーい!」 「あ?」 「え?」  料理を運んでいた日高の姿があった。 ◇◆◇ 「たくっ、来るなら来るで連絡しろ」 「いやぁ、急にごめんなぁゆっちゃん。忙しいのにあんがと」  社会人がせっせと料理を食べにごった返す店内で、早乙女はヘラヘラと笑っている。  いつも以上に苛立った顔をする日高だが、チラリと縮こまる伊宮を見る。 「それに……なんでまた伊宮とハルが一緒にいるんだ?」 「ついさっき会ってなぁ。折角昨日知り合ったばっかやし、仲良うなろおもてな!」 「ハル。無理矢理連れてきたんじゃねーだろうな」 「無理矢理ちゃうで。ちゃんと合意は得たわ。なぁ、伊宮君」  早乙女の問いかけに伊宮は戸惑いながらも縦に頷いた。正直にいえば、無理矢理なのだが。 そんな彼の様子を見た日高は「はぁ〜」と深い溜息を吐いた。 「ハル。お前、今日は伊宮の分も払えよ」 「えっ!? いや、まぁ、俺ちゃんが誘ったからそうなるのはしゃーないか」 「素直でよろしい」 「日高君、別に奢ってもらわなくても」 「いや、迷惑かけたんだ。これぐらいはさせてくれ」 「……う、うん」  そう言って日高は厨房へと戻っていった。そんな彼の働く姿を、伊宮はジッと目に焼き付けている。  全体的に黒い服で、赤いエプロンと頭巾を被り、熱心に料理を作ったり運んだりしていた。そんな姿に、伊宮はうっとりと見惚れていた。 「ゆっちゃん、カッコイイ?」 「へっ」  早乙女からの問いかけに伊宮は変な声を出す。そんな伊宮にニコニコと笑いかけながら、早乙女も彼と同じように日高を見つめる。 「う、うん。カッコイイ」 「うんうん。カッコイイよなぁ。ゆっちゃん自身は謙遜するけどよ、カッコイイし、優しいし。そんなゆっちゃんに惚れて、学校にもゆっちゃんのファンがめちゃくちゃ多いんだぜ」 「へぇ……」  早乙女は満面な笑みで、大切な幼馴染である彼の良さを自慢する。 「なぁ、伊宮君」 「はい」  伊宮が見ていると、早乙女も伊宮の方へと向き名前を呼ぶ。 「ゆっちゃんが珍しく俺ちゃん以外と仲良うしてるからな、俺ちゃんも仲良うしたかってん。でも、嫌やったらちゃんと言ってな?」 「えっ」 「いやぁ。伊宮君が嫌そうな顔してんのは分かってたんやけどなぁ。仲良うしたいのといじりたいって気持ちが出てしもうて」  そんな発言をサラッと笑いながら言う彼に、伊宮は口を閉じれなかった。まず、自分はそんなに顔に感情を出してしまっていたのかと心中で反省する。  けれど、彼の「仲良くしたい」という気持ちは伊宮にちゃんと届いた。 「うん。僕も、早乙女君と……仲良くしたい」  苦手な性格ではあるものの、日高の友達ならば悪い人ではないし、きっと時間が経てば仲良くなれる。そう、伊宮は考えての言葉だった。  へにゃとした伊宮の笑みにつられ、早乙女も初めはぽかんとしていたが「へへっ」とこちらも緩んだ笑みを見せる。 「あっ。漫画だけどさ、どんなのが好きなの?」 「えっと、実は……少女漫画で」 「少女漫画か〜。それなら--」 ◇◆◇ 「……」  日高が二人のテーブルへ料理を運びに行くと、仲良さげに楽しく話している姿が見えた。そんな二人を見て日高は、眉をより一層ひそめながらズカズカと彼等のテーブルへと辿り着き。 「おらよっ」 「「わっ!」」  日高は二人のラーメンを乱暴に置いた。被害は無かったが、二人は会話を中断し目を丸くしながら日高を見る。 「ちょっとゆっちゃん! いきなりで驚くじゃんかー!」 「……悪い」  そう言い残して、日高は二人のテーブルを去った。  胸に感じる、チクチクとした感覚に悩まされながら。

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