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8.「伊宮、身体を動かしても意味ねぇぞ」
『GWの五月三日って暇か? もし暇なら三人で遊びに行こうや! 計画は明日の放課後な! いつものファミレスでな』
「……三人って。日高君とも」
◇◆◇
夜中に早乙女からそんな連絡のあった、次の日の放課後。
三人が初めて揃ったファミレスにて計画会議が始まろうとしていた。
伊宮はまだヤンキーな見た目である二人と共に遊べるようになれた事は、彼の親友である早乙女の存在のおかげもあって、自分にとって大きな一歩であり、チャンスであると心中意気込んでいた。
注文した山盛りポテトをおやつ代わりに頬張りながら、早乙女が一番に口を開く。
「んで、どうする? どこで遊ぼうか?」
「別に俺はどこでも」
「俺ちゃんも、次の日仕事の準備したいから、遠出やなかったらなんでもええで」
「仕事?」
早乙女の仕事という言葉に違和感を持った伊宮が彼に問いかければ、彼は照れくさそうに笑う。
「あぁ、せっちゃんには言ってなかったなぁ。俺ちゃん学生モデルやってんの。その仕事のイベントが五月五日やから、前日入りしてリハーサルすんの」
「学生モデル!? 凄いね! ……って、せっちゃん? それ、僕のこと?」
伊宮は早乙女の仕事の正体について驚くも、それよりもさらに驚いたのは彼が伊宮を呼ぶあだ名であった。
「そう、せっちゃん」
「悪ぃな、伊宮。コイツはあだ名付けるのが好きだからよ。俺もあだ名がゆっちゃんだろ?」
「顔が怖いから、あだ名ぐらい可愛くしてやんないとな〜」
「いらねぇ世話だ」
早乙女がニコニコと笑い、日高は面倒臭そうな顔をしながらも嫌そうではない表情で絡む姿を、伊宮は「いいなぁ」とポテトのカリカリとした部分を齧りながら眺める。
「そんでよ、せっちゃんはどうしたいん?」
「え? 僕?」
「おん。折角やし、今回はせっちゃんが行きたいとこにしよーや」
早乙女からの提案に伊宮は唸りながら考え、最終的に「そうだ」と二人にニコッと微笑みかける。
「二人の、いつも遊んでる場所に行きたいな」
◇◆◇
「よっしゃー! 俺ちゃん一番乗り!」
「俺二番」
数多のゲーム音が騒音として鳴り響くゲームセンター。
そこの一角に置かれたカーレースゲームで遊んでいた伊宮・日高・早乙女。
早乙女が一着、そこへ僅差で日高が二着でゴールするというなかなかのレースを魅せていた。
「で、残るは……」
早乙女と日高は、三列席の左席へあたたかい目を向ける。
「よっ、はっ、よ!」
そこには身体を傾けながら精一杯運転する伊宮の姿があった。
「せっちゃん頑張れ〜」
「伊宮、身体を動かしても意味ねぇぞ」
「えっ!? そうなの!?」
「ゆっちゃん。今それ言わんくてええから」
二人の声援のおかげか、伊宮も無事にゴールへと辿り着く。
「や、やった!」
「やったな、せっちゃん! よう、やった!」
「おめでと」
二人が拍手をしながら褒めてくれるのを、伊宮はほんの少しだけ頬を赤らめながら照れる。
「よーし、次のゲーム行こかー!」
早乙女はそう声を上げて、人混みの中へと走っていってしまう。そんな彼の後をゆっくりと、伊宮と日高が追いかける。
「早乙女君、すごいはしゃいでるね。いつもこうなの?」
「そうだな。アイツ、ゲームセンターとかが一番好きだからよ。だからよく付き合ってやってる」
「……日高君が好きな遊び場所は?」
伊宮がそう尋ねると「俺は……特にねぇなぁ」と、少し考えてから情報が無い答えを出した。そんな彼の答えに伊宮は残念がった。彼のことについて何か一つでも分かればと思っていたのだが、そう簡単にはいかないものだと伊宮は頭を悩ませた。
「そういうお前は?」
「僕? 僕は……そうだな。図書館や、あとは大きな花屋さんとか専門ショップとか……そういう誰かが好きな場所に付き添ったりするのは好きだよ」
「そうか。……でも、お前無理してねぇの?」
「え? 無理って?」
日高からの問いかけに伊宮は首を傾げる。
「だからさ。俺達がいつも遊ぶ場所に行きたいだなんて言ってくれたけどよ、無理してんじゃねーかって。さっきのん聞いてたら、うるせぇ場所なんて好かないだろ」
彼は目を逸らしながら伊宮に向けてそんな言葉をかける。日高からの彼を心配する言葉に伊宮は「え、えっと」と言葉を慎重に選びながら口を開く。
「心配してくれてありがとう、日高君。無理なんかしてないよ? そりゃあ、いつもはこんな所自分から遊びになんて来ないけど。日高君や早乙女君が、普段どんな事をして遊んでるのか気になったんだ。これからもその……一緒に遊んでいくなら」
伊宮が最後の言葉を照れながら、小さな声で話す。そんな彼の様子を日高はジッと見つめ。
「そっか。それなら、よかった」
と優しい声で、今まで無表情であった彼の口元はほんの少しだけ口角をあげた。
そんな彼の表情に、伊宮はまたも頬を赤らめた。
「(いつも無表情な顔を突然笑顔にするのは、ほんと、心臓に悪いよ……)」
伊宮が日高の表情にうっとりとしていると、「おーい! 二人共、こっち来てくれよー!」と早乙女が二人を呼ぶ。
その声につられて、二人はそちらへと足を運ぶ。
「これ欲しい!」
「え?/あ?」
早乙女が指すのは、ぬいぐるみが沢山置かれたユーフォーキャッチャーであった。
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