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9.「それはプレッシャーをかけてるのかな、早乙女君!?」

「これ欲しい!」  早乙女が指すのは、煌びやかな蒼いアイドル衣装と同じ青髪のキリッとした顔の男性キャラが、可愛らしいぬいぐるみとなってユーフォーキャッチャーの中で転がっている。  そのキャラクターに伊宮は心当たりがあった。それは、早乙女と偶然出会ったアニメ専門ショップにて彼が買っていたアクリルキーホルダーの一つにそのキャラクターの物があった。 「これ、前も欲しいって言ってたよな? まだ取れてなかったんだな」  日高の呆れ具合を見る限り、どうやらかなりこのぬいぐるみに早乙女はご執心のようだ。 「取れてねーよ! 俺ちゃんこういうユーフォーキャッチャーだけは苦手やねんよな〜」  早乙女の悲しげな姿を見て、伊宮はグッズに対してとても欲しいという欲望を持ったことがなかったため、彼の感情に対し同情する事が出来ず「へぇ……」と言葉をかけるしか無かった。 「つーことで。はい!」 「ん?」  早乙女から伊宮の手に、光る百円玉が渡される。 「やって、せっちゃん!」 「なぜ!?」 「だって〜。せっちゃん、こういう細かい作業とか得意そうやからさ〜」 「それは俺も同意だな」 「日高君まで!?」  早乙女は伊宮の肩をガシッと掴み、ユーフォーキャッチャーの前へと連れていく。 「だからっていきなりは無理だよ! この、えっと、ユーフォーキャッチャー? はするの初めてだよ!?」 「分かってるんやけどさ〜。な? 頼まれてくれよ〜」 「ま、いい思い出になるだろう」 「そうそう! お代は俺ちゃんのお金」 「それはプレッシャーをかけてるのかな、早乙女君!?」  伊宮は一呼吸おいてから、ユーフォーキャッチャーに早乙女から渡された百円玉を入れる。伊宮が一つ目のボタンを押せば、アームが動き始めた。そしてゆっくりと二つ目のボタンを押し、両爪を開いていく。爪はちょうどぬいぐるみの首部分を掴んだ。 「おっ、せっちゃん。初めてにしてはアーム運びが最高やんか」  早乙女が伊宮のアーム運びを褒めている間に、アームはぬいぐるみを上へと運んでいく。しかし、ここで期待をさせておいてどうせ落ちてしまう、それがユーフォーキャッチャーの嫌な所でありハラハラドキドキの面白い所なのである。  のだが。 「……」 「……」 「……」  ポトン。 「……取れた」 「……取れたな」 「……取れ、ちゃった」  三人は互いに顔を見合わせ、両腕を上へと広げ、両手を合わせ、パァンとそんな彼等の喜びを現すかのように音を立てる。 「よっしゃああああああ!!!! 一発や!! すげえええ!!!! せっちゃん、ありがとう! ちゃう、伊宮様!!」 「はい!? 様!?」  伊宮は早乙女が頭を下げる姿に驚きながら、彼へ取ったぬいぐるみを渡す。 「ありがとう、せっちゃん!! はあぁ、いらっしゃい俺ちゃんの推し!!」  早乙女は伊宮からもらったぬいぐるみをぎゅうと抱きしめた。とても幸せそうな表情に、伊宮はホッと安心する。  この感動の味を知ってしまった早乙女は、「よーし!」とぬいぐるみを掲げながら前へと進む。 「このまま、他のユーフォーキャッチャーもやったるでえええ!!」 「伊宮の力でな」 「そのとーり!」 「えええっ!?」 ◇◆◇  そうして、陽が沈むまで彼等は腕いっぱい、袋いっぱいにぬいぐるみやフィギュアやおもちゃを詰め込んで、ゲームセンターから出てきた。 「いやぁ、大漁、大漁! せっちゃんセンスありありやんか!」 「僕も。自分にこんな才能があったなんて……」  伊宮はとても疲れきっていたが、袋いっぱいに詰められた景品を見て、彼は口元をほころばせる。 「とっても。楽しかったなぁ」  そんな彼の言葉と笑顔に、日高と早乙女は「そりゃ、良かった」と楽しげな声で答えた。

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