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12.「うん。いい友達だよ。」

「たいっへん、ご迷惑をおかけしました!」  渋谷にあるホテルのラウンジカフェにて、京と蒲は向かいに座る三人に深々と頭を下げた。  伊宮が勘違いをしている京に、日高と早乙女は友達で今日も遊ぶ予定であった事を話すと、彼女はじわじわと顔を青ざめて蒲と謎のアイコンタクトを取って、蒲は日高と早乙女を京は伊宮を担いで、このホテルまでやってきたのである。  そして今。 「京さん、頭上げて。勘違いなんだからさ」 「そうっすよ。俺ちゃん達、特にゆっちゃんは見た目がこんなんやから、せっちゃんがカツアゲされてるとか思うのは当然や」 「ハル。こんなは余計だ」  日高は早乙女にゲンコツをくらわせてから、姿勢を正して彼も京達と同じく頭を下げた。 「自己紹介が遅れました、日高優です」 「俺ちゃんは、早乙女遥。ちなみに、そっちは? せっちゃんのメイドさんと執事さん?」 「ご丁寧にどうも。日高さん、早乙女さん。私は京。聖司さん専属のメイドです。こちらは、蒲。聖司さん専属の執事です」  京が自己紹介をして頭を下げると、蒲も同じように頭を下げる。伊宮の専属という言葉に、日高とニヤニヤと笑みを浮かべる早乙女は「へぇ〜」と恥ずかしいのか頬を染めている伊宮を見つめる。 「な、なにさ」 「専属ってすごいやん! いやぁ、流石はお坊ちゃん校に通うだけのことはあるなぁ!」 「それ、別に褒めてないよね早乙女君」 「まったくない! でも羨ましいわぁ、こんな美人さんのメイドが家におるなんて」 「……あー! うん。そうだね」 「なんやねん、そのそうでもないとでも言いたげな顔は!」  早乙女の言葉に、なぜか伊宮は苦笑して横目で京を見ると、当の彼女は口元をおさえながら上品に笑っている。  そこで、今まで頭を下げる以外のリアクションをしなかった蒲が、京の肩を叩く。 「なんです蒲」 「……」 「あら、いけない! 用事を忘れていましたね。教えてくれてありがとう、蒲」 「用事って?」 「……」 「へぇ、最近出してくれてるあの美味しい紅茶、この近くのお店にあるんだね。それを買いに来てくれてたんだ」 「はい。次は何のお味にされますか?」 「うーん、なんでも! とりあえず一通りの味を楽しみたいかな」 「かしこまりました」 「いやいやいや、ちょっと待て」  早乙女が三人の輪へと割って入る。 「なんで、その蒲さんの言いたいこと二人とも分かるん? なんも、眉も目も動かしとらんし、口やって動いてないし!」 「それは、俺も思った」  日高と早乙女の異質なものを見る目に対して、伊宮は頭をかきながら「なんでって、ねぇ?」と京と目を合わせ「そうですねぇ」と京はニコニコと微笑む。 「長い付き合い、だから出来ている事だと思います」  京の答えにいまいち納得できていない日高と早乙女だが、これ以上聞いても意味はないと悟ったのか、互いにその回答にうなづいた。 「あ、せや。ここトイレってどこにあります? もう出るなら行っときたいんやけど」 「俺も行っときたい」 「お手洗いなら、このカフェに……ほら、後ろにありますよ」  京は早乙女達の背後へと指を差すと、そこには二人のお目当ての手洗い場があった。 「あざまーす。せっちゃんは?」 「僕は大丈夫。行ってらっしゃい」  日高と早乙女が手洗い場へと向かうと、京が「聖司さん」と伊宮に優しく話しかける。 「何?」 「何度も申し訳ありませんが、お友達をチンピラと勘違いしてしまい申し訳ございませんでした。身なりや言動に関しては、一部注意したいものですが……良いお友達をお持ちになりましたね。彼等と話す伊宮さんは、とても楽しそうに感じられました」 「……うん。いい、友達だよ」  京に二人の事をよく思ってくれた事に心を弾ませる伊宮だが。自分で「友達」と言いながらも、ほんの少しだけ、心のほんの片隅だけ、我儘だと思いながらもその言葉に傷ついていた。

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