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3成長
「ねえ……フミは女の子のここ、見たことある?」
女性の性器──あるわけない。
関節の目立つ大きな手のひらが、そっと太ももを撫でて登っていく。
くすぐったい感触に小さく声が出たが、次から次に状況が変化していき頭がついていけない。
反応が出来ない俺に友くんの手は大胆になり、脚の付け根まで這わせると、閉ざした秘部の肉を左右に押し開いた。
「……友くん!?」
秘めた箇所が開かれて、ひんやりした外気と熱い視線に晒されている。
直接さわられてもいないのに、その奥がジンジンと熱く疼く。
友くんが見ているせいだ。まるで視姦されてるみたいな気持ちになる──。
居心地の悪さにジリジリしていると、友くんは、かわいい──と長いため息をついて言った。
「──ほら、フミも見て。自分で見てみないと不安なままでしょ?」
優しげな声に諭されて、そろそろと視線を向ける。
見下ろす角度からは全部が見えるわけじゃない、それでも──。
すごい──いやらしい──。
肉のヒダが柔らかそうに重なって、うねうねと物欲しそうだ。
男目線での興奮なのか、女としての願望なのか、よく分からない。
ただそれはとても、淫らでいやらしい。
これを、友くんも見ている。
男を受け入れるその場所を、正面から、開かれて、全て。
そしてそれは俺の身体──。
「っ、やぁ、友くん、もう、見ちゃ──だめっ」
これまでにない羞恥心が襲ってきた。
友くんの──男の前で全裸で居ることの意味を、ここへきて初めて実感した。
かあっと、一瞬で全身が熱くなる。
今はそんな場合ではない。そんな事より考えるべきことは沢山ある。
なのに俺はなんで──
こんな──
いやらしいことを考えて──。
「そんな言い方、逆効果だよ。フミ──分かってる?」
友くんの指が肉の重なりの中に潜り込んだ。
曲げた指の背で、そこを柔らかく行き来する。
クチュクチュと──ありえない音がした。
「ん、あ、いやぁ……っ」
「自分がこんなに濡れちゃってるって」
指を膣の入り口に当てたままグニグニと押し付けられる。
触っている間にも滑って這入り込みそうなほどに、そこは蜜で潤っていった。
「でもおかしいな。ココってえっちな気分になると濡れるんだよ。こんな状況で、そんなはずないのにね。ねえ、フミ」
「ん、や。は、ぅんっ……ん」
どうして、焦らされてるなんて思うんだろう。
身体の内側が欠けている。足りてないから満たさないといけない。
何でそんなこと感じるんだ、そこに何かが入った経験などあるはずないのに。
その空虚を何かで──苦しいくらいにミチミチに、隙間なく埋めて欲しい。
「──もしかして感じちゃってるの?」
友くんが指ではなく手のひらで恥部を覆った。
閉じそうになる肉のひだを器用に押し開き、揃えた四本の指でぬるぬるとした体液を、一面に広げるように塗り込められる。
膣口をこすられるたび、膣内 に、奥に、深く入ってきて欲しくて──ねだるように腰がくねってしまう。
友くんは──すごくいやらしい。経験だって絶対ある。
こんな触り方、慣れてなければ出来るわけない。
こんな、女にするように触られて感じるはずない。
……矛盾だって分かってる。
俺の身体は女なんだから女にする愛撫で気持ち良くなって当然だ。
でも感じないんじゃない、感じたくないんだ──それなのに──。
「っく、ぁ……きもち……い……」
認めたくなくたって、その事実は変わらない。
「そっか。気持ち良くなっちゃったんだね。もっとして欲しい?ここ、弄られたい?」
ここ、と言いながら穴の入り口に指を充てがう。
その場所で指を引っ掛けたり、這入って来ないままツプツプとうごめかされたりする。
呉れないのならもう……自分から腰を突き出し差し込んでしまいたい。
俺はなにを──考えてるんだ。
「ん、んぅっあ……や、やだぁ……」
「は──かわいい。腰、揺れちゃってる。意地悪しないで──入れてあげるね」
ニュプププといやらしい液をこぼしながら指が這入ってくる。
ゆっくりと、膣内 の肉壁がこすられていく。
「ふぁ、っ、あ、あんっ、んぅ」
「指に絡みついてすごく気持ち良いよ、フミのなか」
腰が抜けそうで堪らなくなって、友くんの顔に胸を押し付けるのも構わずしがみついた。
「わざとじゃ、ないんだろうけど……そんなに煽られたら自制心もう保たないよ」
そう言った、友くんの手が撫でたのは乳房で、少しホッする。
そこは俺の直接の性感帯ではないようだった。多少感覚が鈍い。
追い立てられるような快感の中、これ以上されたらどうなってしまうか分からない。
安堵しながら俺は友くんに縋り付くのをやめようとしなかった。
それはすぐに後悔に変わる。
「んやぁ、っあ、あっ、っんっ──」
友くんが乳輪からまるごと唇で覆いつくし、乳首を吸い上げ舌で転がしている。
もう片方にも手を伸ばし、乳房を掴んだまま乳首を引っ張り上げ、グニュグニュと指で擦り合わせるようにこねる。
挿入している指よりもずっと荒々しい愛撫だった。
「一度にこんなに責められたら、おかしくなっちゃうよね。でも乳首が目の前にあって、大きくていやらしくて俺の好みだから、すごく興奮するんだ。ごめんね」
覆った唇を離し、代わりに舌を出して乳首をしゃぶりながらそんな事を言う。
謝るくせに、やめる気なんか全然ない。
「っや、や、ぁ、やめ……て」
「でも感じてるよ。ほら、こんなに汁がジュブジュブいってる。乳首、強く弄られて気持ちいいの?嬉しい……もっと、大きくなるよう育てちゃっていい?」
「やだ、や、ん、んっあ──」
強く吸い上げられて乳頭を甘噛みされる。指でつぶされた方は痛いくらいなのに、ジンジンと痺れてきて、もっとして欲しくなる。
友くんは蜜の溢れる秘部を指でこね回して、ヂュパヂュパと胸をねぶる。
見下ろした俺と目が合うと、動きを止めて嬉しそうに微笑む。
こんな卑猥な行為をしているとは思えないほど清らかな表情だ。
寮長に任命されるくらい人望が厚くて、人当たりが良く品行方正な、いつもの友くんにしか見えない。
そんな友くんが微笑んだまま、また動き出す。
いやらしく指を出し入れして、乳首を啄む──。
俺は喘ぎ声が止められない。
もう何が何だか分からない。友くんはおかしい。
俺も頭がおかしくなったみたいだ。
気持ち良すぎてどうにかなりそう。
どうにかして欲しい──もっと、欲しい──。
「友、くん──きもち、い──」
「うん。気持ちいいよね。感じてるフミ、かわいい」
「っあ、あ、ま、んこ……きもちい……もっとぉ、もっといっぱい、に……して」
「それ──言っちゃダメ……でしょ」
友くんの動きが止まって、硬い声がたしなめる。
だってそうとしか言いようがない。有るべき所に、ちんこはないし。
こんなことしておいて上品ぶっても仕方ない。
俺からしたら、友くんがこんなにエロかったショックの方がよっぽど大きいよ。
半ば自棄 になってそう思う。
だけどそれは勘違いだった──友くんは俺の品性なんかを注意したわけじゃなかった。
「そんなこと言われたら俺、もう挿れるしかなくなるよ。いやらしい事をしてる時に男を煽ったんだから、仕方ないよね」
友くんは俺の脚を閉じると、ベッドの上に持ち上げた。
キスができそうなくらいに近づかれて、焦って頭を引くと友くんの目が細くなる。
「隙だらけ」
バランスの悪くなった上半身を軽く押されて、簡単に後ろに倒れた。
その上に覆いかぶさる友くんと身体が密着する。
嫌でも気付かされる──気付くように、押し付けてる。
友くんの硬くなった股間を。
「友……くん。な、に、どう──するつもり──」
「そんなにはっきり俺に言わせたい?したいよ。フミとセックスしたい」
両手がベッドに押し付けられる。
友くんの顔が近づいてくる。
「俺のことは後で手でしてもらおうと思ってたのに──後悔したって遅いからね」
「そ──んんっ」
封じ込めるように唇を塞がれた。
角度を変えながら重ね合った部分を、ねっとりとこすり合わせてくる。
唇のつなぎ目に唇を捩じ込んで開かされた隙間に、舌が這入り込んで口腔内も唇も頬や喉にも構わずネロネロと這い回る。
絡め取られた後は俺が同じ動きをするようになるまで舌で撫で回された。
粘膜に包まれた肉塊同士がムニュムニュとこすれ合うのは、信じられないほど気持ち良い。
舌での抱擁の合間に漏れ聞こえる、友くんの色を含んだ掠れ声が耳の奥までもいやらしく愛撫して、気がつくと俺も夢中になって蠢く舌を追いかけていた。
友くんの触り方はどれを取ってもしつこくてねちっこい。
表面に見えている友くんにそんな執拗さはどこにもない。
それだけに、こっちが本質なんだと感じてしまう。
それは──俺の知らない友くんだ。男の俺では見ることがなかったはずの。
離れていく唇は唾液の糸で繋がっている。
放心したまま俺はそれを眺めた。
「俺がフミを、本当の意味で女の子にしてもいいよね」
あんなに淫らなキスをして、それでも穏やかな表情で友くんは笑う。
逆に冷酷に感じられるほどだ。
「本当の意味……?」
なんの話だったか分からなくなっている。
さっきからずっと流されて、気持ち良くてもっと触って欲しくて──。
なに言ってんだ俺──それじゃ、ダメだろ。
英太に身体の変化を気付かれそうになった時、あんなにはっきり嫌だと思った。
男に欲情されるなんて冗談じゃない。
それが普通で、そう感じるということは俺は男だ。そう思っていられる。
なのに……相手が友くんだと、こんなにいやらしい事をされても俺は拒みさえしない。
その上、最後までしてしまったら──本当に女になるんじゃないか。
抱かれたいと自分から望むように──。
そこまで考えてギクリとした。
友くんはいま、なんと言った……?
──本当の意味で女の子にしてもいいよね──
そう、言った。
このまま流されたら俺は──ダメになる。
友くんから逃れようと無駄な努力だろうがもがく。
友くんは──何の支障もないように俺の四肢を押さえ込み、きつく抱きしめてきた。
「好きだよ史暁 」
「──っ!?」
「もう遅いって、言ったよね?」
そんなふうに身体全体で伸し掛かってこられたら、俺はその下から逃げられない。
「いっぱい愛して、俺のことを好きにさせてあげる」
唇を舐め上げて俺の顔を覗き込んだ瞳には、ありありと情欲の色が浮かんでいた。
俺に雄の顔を向けることを隠していない。そこに品行方正な友くんは居なかった。
自分に都合の良いことを言い、やりたいようにしているだけだと分かっているのに──何故か随順したくなってしまう。
こんな異常事態にも自分のルールだけを優先する、ふてぶてしい逞しさに本能が依存するように。
あるいはこんな事をされても、見捨てないでいてくれることに縋り付いているだけかもしれない。
俺の言葉なんてただのきっかけに過ぎない。
友くんの部屋に入った時点で──こうなることは決まっていた、そう思えて仕方ない。
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