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『今度どこかに遊びに行こう』
朝のジョギングに加わった久重との短い時間。
『おはようございます』
『今日は良い天気ですね』
最初こそ挨拶程度だったやり取りは日が経つにつれ少しずつ互いの情報交換へと変わっていった。お互いに仕事前の僅かな時間でのやり取りではあったが、彼のことが少しずつ分かっていくことに不破は密かに喜びを感じていた。
不破からの誘いに一瞬キョトンとした久重は、ノートのページを捲ると新たな文字を書き込み始めた。
『どこに行きますか?』
不破の乱雑な文字とは対照的に丁寧に書かれたその言葉に「やった!」と素直な気持ちが飛び出した。それは文字にしなくても久重に伝わったらしく、フフッと笑うと足元の愛犬の頭を撫でた。
『このこはルイです』
初めて話しかけたあの日、犬の名前を尋ねた不破に教えてくれた。保護したのだという黒い犬を愛しげに撫でるその手は優しく、不破のものとは違って色白だ。
「ルイはどこに行きたい?」
伏せているルイの前にしゃがみこみ大人しくしているその顔を挟んでワシャワシャと撫でた。警戒心を解いたルイは最近では腹も見せてくれるようになり、不破が撫でるとすぐにゴロンと仰向けになる。
『せっかくだからルイと行けるところにしよう』
急いで文字を起こし久重に見せれば嬉しそうに頷く。
その笑顔がなぜか直視できなくて。
不破は慌てて視線をルイへと戻すと、誤魔化すように「楽しみだな~!」と抱き締め顔を隠した。
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