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おかしい、俺。 久重の側にいると時々心臓が苦しくなる。 こんな経験したことがなくて戸惑うことが増えている気がする。擽ったいような感情にソワソワと落ち着かない感覚。 でもそれは不快なものではなくて。 『そろそろ帰らないと遅刻しますよ』 軽く肩を叩かれ顔を上げれば、クスクスと笑いながら久重がノートをこちらに向けていた。 「っぶね!ありがとう!」 浮き足だっている場合ではないことに気付きお礼を告げる。 「おういあしまして(どういたしまして)」 簡単な言葉なら口が読めるらしく、そんな時には久重は声を出して答えてくれる。子供の頃から練習を重ねてきたのであろう、久重の口から発される言葉が不破は好きだった。 『明日行く所決めよう。楽しみにしてる!』 殴り書いたノートを破り久重に押し付けると、不破は「じゃあ!」と手を上げジョギングを再開した。 同じように返してくれる久重の大きくとも華奢な手に、また胸が疼いた。

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