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第12話
今日は客が誰もいないのか。店には俺と雨宮の二人きり。そんな事実に妙にソワソワ、俺は浮かれていた。
「ハイ。カプチーノだよ。 珍しいね。いつも、エスプレッソなのに」
テーブルに置かれたカップに目をやる。
「今日は疲れてるから、甘いのが飲みたくて…… これ、なんか、絵が描いてある。」
「何に見える?」
「うーん。骨が透けてる魚?」
「魚!?骨!? 上手く描けたと思ったのに。 もう一度よく見て!」
雨宮が必死に話す。
「オタマジャクシ」
「…………なっ!失礼な!葉っぱだよ。」
「なるほど。この線は茎と葉脈か」
雨宮は思い出したかのように笑ってる。
「あっはっは!オタマジャクシって! そんなラテアート、聞いた事ないよ!」
「オタマジャクシ、可愛いじゃん」
「…………え?本気で言ってる? あれ、全然可愛くないよ。成長すると蛙の手足が生えてきて、結構ホラー」
真顔で雨宮が言ってきた。
「ぶはっ!確かに」
二人で爆笑。こんな風に笑い合える日が来るなんて……
雨宮、可愛い……
笑顔を盗み見してから、誤魔化すみたいに甘いカプチーノに口をつける。
笑顔を見ると幸せな気分になる。
一緒にいると時々切ない。
『好き』の気持ちはどこから来るんだろう。考えたって分からないんだ。この年になって拗らせた片思いに振り回されて、何も返してくれなくてもいいから側にいたいと思う始末。
…………こんなの、誰にも言えない。
『雨宮には彼氏がいる』
想っても叶う事はないから……
行き場をなくした気持ち。
ひっそりとした恋心を胸の奥に閉じ込める。
「今日も凄い雨だね。」
雨宮の言葉で窓の外を見た。
この降りしきる雨みたいに全部、俺の気持ちも、どこかへ流れてしまえばいいのに。
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