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第3話 水曜日

 他人のスマートフォン。  個人情報だらけの貴重品を持っていることに、居心地の悪さを感じる。しかし、いくら落とし物とはいえ、学校に預けることはできない。校則で禁止されているからだ。僕は、校則違反は嫌いだ。しかし、何故か麻野を教師に売るような真似はしたくなかった。それに、今日も放課後、麻野はきっと掃除をしている。部活に行く前に、返しに行けばいい。  持ち主のいないときに鳴ったら嫌だった。だから僕は、そのスマートフォンの電源を切ったまま預かることにした。  ほんの少しだけ、彼に会うことに期待している自分がいる。きっと、普段話さない人種との時間に、楽しみを見出しているからだろう。非現実的な時間だ。それもそのはず、あんな人間と今まで話したことはなかったのだから。  水曜日。理科室に向かう渡り廊下。今日も、雨は止まない。  やはり、彼はそこにいた。今日は、僕が渡したデッキブラシで、効率よく掃き進めている。 「昨日、これ落としていったよ」  僕の声に、彼が顔を上げた。僕の手の上にある機械を一目見れば、その瞬間彼の表情は強張る。 「てめえ、中身見たのか?」 「見てない。ていうか、電源も落としておいた」  別に君のスマホの中身に興味なんかないよ、と一言付け足し、僕は麻野にスマホを渡す。 「嘘言え、見ただろ」 「見らたら困るものでも入ってるの?」  顔に、イエスと書いてある。言葉にされなくたって、その表情を見れば一目瞭然だった。 「恐喝でもしたか? それか、特定の誰かをいじめてるとか。ああ、わかった。女の人を犯して、その写真を持ってるとかかな? どうせ、バレたらまずい証拠でも入ってるんだろ」 「そんなことしてねえよ」  僕が捲し立てる嫌味を聞きながら、麻野はスマートフォンの電源を入れる。 「じゃああれか。病み垢とか裏垢とか? この前も、誰か死んだとか殺したとか、ニュースになってたよな。君に限ってそんなメンヘラみたいな――」  麻野が、じっと僕を見つめている。 「あれ……図星かよ」 「別に、メンヘラじゃねえし」  こちらから攻撃していたはずなのに、どうしてだろう。いたたまれなくなった僕は、何も言わずにその場を後にした。

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