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第9話
side凪
この日もいつものように三階の窓から中庭を見ていた。魚影は見えない。池の底で昼寝でもしているのだろうか?
「凪、いつもここにいるよな」
振り返ると両手をズボンのポケットに突っ込んだ拓己がいた。よく見ると綺麗な顔に似合わない学生服の着方をしている。
声をかけられた日は気づかなかったが、着方が雑なのだ。Yシャツのボタンは真ん中三つほどしか留められておらず、裾は一部のみズボンに収納されている。
袖は左側だけ肘の部分まで捲られているが、反対側は萌え袖のようになっていた。
「……」
「何してんの?」
「…鯉が見えるんだよ」
僕の隣に無理やり身体を入れてくる。
「いねーじゃん」
「いつもはいるの」
「ふーん」
興味なさそうに下を覗く。
「凪、背いくつあんの?」
「それ聞く?」
「教えろよ」
「イ・ヤ・ダ」
「いいじゃん。減るもんでもないし」
「確実に減る!」
…失礼だ。失礼にも程がある。
人のコンプレックスを刺激しやがって。
僕は黙ってそっぽを向いた。
「わりぃ、しつこかった」
あ、謝るんだ…。
「オレ、好きな奴いんだけどさ、背低いし顔はこんなだし自分に自信がないんだ」
たいして親しくもない僕に拓己はそう言った。
顔を背けているのは耳まで赤く染まっているからか。
恋愛偏差値どころか人付き合いのレベルがマイナス側に片寄っている僕にとって、この手の話は縁がない。
(何で僕に?)
専門外の内容にヤバイと思った僕は
「152だから!」
と言って拓己に背を向け逃げ出した。
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