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第20話
side晴海
「ただいま」
家人が居ても居なくても習慣的に声を出す。
だが今日は凪が帰ってきているようだ。
そっと部屋を覗くと、制服のままベッドで寝転んでいる姿が見える。
起こさないようにドアを閉めた。
自室に入り部屋着に着替えてソファーでぼーっとしていたら凪が起きてきた。
「凪、起きたの?」
「ああ、うとうとしてた」
頭を掻きながら向かいのソファーに座る。
(あれ?いつもなら隣に座るのに…)
「受験生って疲れるよね」
(普段の凪とは少し雰囲気が違う…こう、物憂げというか…)
キッチンでココアをいれ、凪に手渡す。
「ありがとう」
凪がココアを口に含む。
思わずじっと見つめた。
やっぱりいつもと様子が違う。
(考え事でもしているのかな?)
「凪、どうした?」
凪の身体がぴくっとした。
「…疲れがでちゃったかな」
僕を見る左目がキラッと光った。
だが次の瞬間にはもう目に光るものはなかった。
「今日は母さん夜帰ってくるよね。それまでもうちょっと部屋で休んでくる」
そう言って凪は自室に向かっていった。
学校で何かあったのだろうか。
小さな不安が心の隅に黒い染みを作り始めた。
だが晴海はその存在に気づかないふりをした。
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