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第21話

side凪 「ただいま」 いつものように、まだ誰も帰ってきていない家に声をかけるのは子供の頃からの習慣だ。 共働き家庭だと知らない人に悟られないように、母はそう言っていた。 自室のベッドに制服のまま寝転がり、ぼんやり天井を見る。 (やっちゃった…まさか拓己と…なんで…) 冷静になり、 今さら自分のしたことに青くなった。 恋人でもないのに…。 …だが合意ではあった。 違う、そんなことじゃない。 自分は兄が好きなのだ。男が好きなわけじゃない。 それなのに…。 何で…拓己を抱いたんだろう…。 物音がして目が覚めた。 晴くんだ。 顔が見たいのに会いづらい。 起き上がると左目から涙が一粒零れた。 どうしても顔が見たくて居間へ行った。 晴くんは部屋着に着替えてソファーで寛いでいた。 「凪、おきたの?」 「ああ、うとうとしてた」 頭を掻きながら晴くんの向かいのソファーに座った。 受験生って疲れるよね、と言って晴くんはキッチンへ立つ。 「飲むだろ?」 ココアをいれてくれた。 「ありがとう」 ひとくち含む。 甘い匂いに甘い味。 晴くんを舐めたらこんな味がするのだろうか? 目に、耳に口づけをして…それから…。 身体中に赤い花の跡を残したい。 晴くんが、晴くんが好き…、好きなのに…。 「凪、どうした?」 からだが強ばる。 「疲れがでちゃったかな」 左目から、また涙が一粒零れる。 晴くんに見られないように頭を掻くふりをして袖で拭う。 「今日は母さん夜帰ってくるよね。それまで部屋で休んでくる」 そう言うのが精一杯だった。

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