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第28話
side晴海
制服をハンガーに掛けて、ため息を一つ落とす。
(凪、一緒に出歩くような人がいたんだ)
また、ため息が落ちる。
(僕だって友人は沢山いるし、凪だって…。)
考えが堂々巡りをする。
これじゃいけない、と違うことを考えた。
今日は久しぶりに直樹に会った。
三年であんなに背が伸びて大人っぽくなっていて、そういえば凪も大きくなったよなって、結局凪のことを考えてしまった。
ふふ。自嘲する。
いっそ凪が帰ってくるまで、ずっと凪の事を考えていようか…。
「ただいま」
母の夕食作りの手伝いをしている時に、凪が帰って来た。
「お帰りなさい。今日は鶏つくねよ」
鶏つくねは凪の好物だ。鶏挽肉にみじん切りにした根菜や茸などを加えて混ぜ、スプーンですくって油で素揚げしたものに餡をかけて食べるのだ。
「凪、おかえり」
僕は味噌汁を配膳している手を止めた。
「おなかすいたろ?早く着替えておいでよ」
笑顔を作ってそう声を掛けた。
「うん、そうする」
凪はいつもと変わらない返事をした。
母さんは普段忙しいせいか凝った料理はあまりしない。だが鶏つくねだけは凪の好物だからか手間をかけて料理する。
凪は渋めの和食が好きなようだ。僕は何でもいいのだが、カレーライスやハンバーグといったいわゆるお子さまメニューを好んで食べる。
兄弟でも嗜好はずいぶん違うのだ。
明日も学校で朝から作業がある。
先に入るよと凪に一声かけ、風呂に入った。
明日は会場の設営をするために登校する。
必要な機材を段取りよく搬入するには、といろいろ考えていたら凪に声を掛けられた。
「晴くん、のぼせるよ」
「もう出るよ」
風呂の戸を開けると入れ替わりに凪が入ってきた。
もう脱いでいたのか。
風呂の戸に手をついた凪の左腕に、痣のような傷のようなものがちらっと見えた。
(どうしたんだろう?)
でもその傷について何故だか凪に問いかけることができなかった。
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