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第39話

side晴海 (な…んで、なんで、何で!) ドン、と誰かにぶつかり、チッと舌打ちされる。 僕の心臓は壊れるんじゃないかと思うくらい早く強く打ち付けている。 走って走って、ぐいっと腕を掴まれた。 驚いて振り向くと 直樹だった。 「すげー勢いで走って来て……何か…あったの…?」 直樹は肩で息をしながらも僕の腕をきつく握っている。 「…はぁ、な…何も…な…い」 言いながら涙が頬を伝った。 「ばか、そんな顔すんな」 直樹に強く抱き締められて、堰を切ったように涙が溢れだした。 「うっ…うう…」 「少し移動しよう」 本格的に泣き出した僕の手を引いて近くの公園のベンチに腰かけた。 直樹は膝の上に向い合わせで僕を座らせ、背中をポンポンと叩く。 小さな子供をあやすようにされると、だんだん落ち着いてきた。 「ありがとう。それとゴメン。こんなにみっともない姿見せて」 「…何があった?」 「…」 涙が止まらない。 「言えない…?」 直樹が心配そうに僕の顔を覗き込む。 真っ直ぐに見つめられて止まりかけた涙が再び零れた。 「…僕が…ひっく…勝手に好きに…なっ…たんだ…」 しゃくりあげながら話し始める。 「…うん」 「で…でも…恋人が…い…て…うっ」 「…うん」 「諦め…ようと…ひっく…でも…」 何をしゃべっていいのかまとまらない…。 「…でも…こ…恋人が、…同性だって…わかっ…て…」 「……」 「うっうう…」 温かな直樹の手が、僕の髪をくしゅっと混ぜるのが気持ちよくて僕は泣きながら意識を手放してしまった。 見知らぬベッドの上で目が覚めた。 冷たい物が顔から落ちる。 濡れタオルが掛けてあったらしい。 (ここは?) 場所がわからない。 「あ、起きた?」 「直樹…」 「晴くん眠っちゃったから…勝手に連れ込んだ」 「…つ…連れ込んだって…」 恥ずかしさに顔が赤くなる。 (眠った僕を運んでくれたんだ…。) 気が緩んだせいか涙が落ちた。 「まだ泣いてんの?どんだけショック受けたんだよ…」 「ご…ごめん…」 「泣き虫になっちゃった?」 直樹は僕を優しく抱き締める。 大きな体に包まれてうっとりしてしまった。 「ん…」 「晴くん、感じちゃったね?」 「え…?」 おでこに一つ、頬に一つ…。 キスが落とされた。

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