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第44話
side晴海
「はーるっ!」
教室でいつものように都丸が抱きついてくる。
「動けないよ~」
がっちり捕まってしまった。
(ものすごく嫌という訳ではないんだけど…何で抱きついてくるんだろう…?)
入学式のあと、ややギクシャクしていた都丸との関係も元通りになっていた。
「都丸、見苦しい」
東儀が教室に入って来るなり僕から都丸を引き剥がす。
いつもありがとう、と心の中で呟いた。
放課後、職員室の前を通ると凪がいた。
物理の御子柴先生に捕まっているようだ。
(あ~話が長いからなぁ)
凪は大人しく先生の話に相槌を打ちながら聞いているようだった。
だがその表情はやや困ったように見えた。
ワイシャツの袖口のボタンは外れていて、凪の右手は左腕をさすっている。
おそらく無意識なのだろう。
垣間見えたその腕には、やはり痣と傷があった。
(…新しいのが増えてる…)
心に影を落とす。
わかっていても辛い。
視線を遠くに移し、先を急ぐふりをした。
「あっ!」
中央階段を下ろうとして足を滑らせた。
(落ちるっ!)
落下を覚悟してぎゅっと目をつぶった僕は逞しい腕に掴まえられていた。
(落ちなかった…)
「直樹、なんで?」
「ありがとう、じゃないの?」
そうだ。助けてもらったのだから。
「ゴメン、ありがとう。助かった」
まだ直樹は心配そうに僕を見ている。
「ん?何か…」
何かを言いかけて後ろから抱きつかれた。
「辛そうなんだけど」
ドキッとした。
そんなことない、と言いたくても言えず、中途半端な作り笑顔を向けた。
「そんな顔すんな」
頭をくしゃくしゃに混ぜて、僕の顔をじっと見る。
僕の頬には涙が伝っていた。
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