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第48話

side凪 通学の電車の中で晴くんを観察する。 物憂げに手すりに掴まって外を見ている。 (俺を掴んでくれていいのに) 伏せ目がちな瞳に長く豊かな睫。 (俺だけ見て欲しい) 頬の産毛がキラキラしてる。 (頬にキスしたい) …ダメだな。 頭を垂れる。 邪な視点なしでは見られない。 こんなに可愛い晴くんを射落としたのは誰なんだろう…。 いくら高校という括りでも、1年生と3年生では生活範囲が異なる。 校内で出会う事はそれほど多くない。 だが昼休みと放課後は放送室に行くだろうから、その入口辺りで晴くんの人間関係を少し観察しようと企んだ。 だが10日程経っても晴くんに必要以上接触してくる女子はいなかった。 (好かれているようだけど…好意という程ではないよな…) 晴くんに彼女がいるという俺の推測は、当たってほしくないし、できればその可能性は否定したい。 下校の様子も観察してみたが、女子とは1度も一緒に帰ることはなかった。 (…考え過ぎかなぁ…) 今日で最後にしようと決めた日、放課後の晴くんを東校舎の端で見つけた。 晴くんはポケットからスマホを取り出し、画面を見ていた。 一瞬視線を外して、再びスマホの画面を見ながら入力しているようだ。 (んん?メール?) 俺宛て…ではない。 自分のスマホを確認している間に晴くんはふいっと体の向きを変え、校門の方へ歩いて行った。 (あ、行っちゃう) そ知らぬ風を装って付いて行く。 …と、校門を出た先で一人の男が晴くんを待っていた。 (あれは、同じクラスの…橋本…?) 晴くんと橋本は知り合いなのか? 二人で連れだって駅に向かっている。 そっと後をつけ、電車に乗った。 車内で一言二言話したようだが笑顔や馴れ合いといったようなものは感じなかった。 おれには二人の繋がりがどこにあるのか見当もつかなかった。 答えの出ないまま最寄り駅で電車を降り、うちからほんの少し、通り一つ駅に近い側のマンションに入っていった。 初めて二人で来た、という風には見えなかった。

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