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第58話
side晴海
凪と二人、黙って家まで帰り着いた。
何を話そう。
それとも触れない方がいいのだろうか?
リビングのエアコンを入れて、凪と向き合う。
「凪が誰かと出歩くのって珍しいね」
「…うん。拓己とは中学で仲良くなったんだ」
今までそんな人、一人もいなかった。
「親友?」
「ちょっと違うけど近いかも」
「凄く仲良しだよね。最近よく会ってるみたいだし」
意地悪な聞き方だ。
凪が僕の目をじぃっと見る。
「晴くんは橋本と仲が良いみたいだね」
思いもかけない言葉を聞いて、僕の体がビクッと揺れた。
「…う…ん?」
(なんで凪が直樹の事…)
「晴くんが橋本といるところ、見ちゃった」
この時、僕は体から血の気が引いて冷静に考えられなかった。
「ど…うして…?」
「何で橋本なんだよ」
無意識にギュッと手を握った。
「…どうして俺…俺じゃ…!」
凪の声が大きくなる。
「…だって…凪が…凪があの拓己って子を…うぅ…」
もう声にならなかった。
凪に対する僕の思いを本人に言ってしまいそう。
視界が涙でぼやけた。
兄弟なのに好きだなんて…。
「俺のせい…?」
凪は僕を壁際に追い詰め、両腕を壁に伸ばし僕を捕らえる。
(違う)
(何か言わなきゃ)
「晴くん、俺のせい?オレが拓己を…」
凪の言葉を遮るように、口を開いて言葉を発しようとした。
でも、胸がいっぱいになって涙と嗚咽しか出てこなかった。
「うっ…うう」
凪の胸に力の入らない腕で拳をぶつける。
壁についていた凪の手は一度宙を漂い僕の肩に触れようとした。
だがその両手は僕の頬に触れ、涙を拭った。
「晴くん、ゴメン」
そう言って凪は僕から離れていった。
リビングに独り残されて、僕は泣いた。
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