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第64話
side凪
拓己の話をまとめると、拓己には二卵性双生児の弟がいたが、両親の離婚により父親と弟とは離れて暮らすようになった。
その弟の事を “にゃーちゃん”と読んでいたらしいが名前は思い出せない。
さらに母親には言えないけれど会ってみたいらしい。
「お母さんに聞いてみたら?」
「聞いたことあるんだけど、黙ってるだけでさ」
想定内の反応だ。
「親戚とかいないの?」
「近くにいるはずだけど…小さい頃行ったきりだからわからない」
拓己も想定内の答えだ。
大人の事情でいろいろあったんだろう。
双子の幼子を引き裂く位だ。
子供の俺には想像出来ない何かがあったに違いない。
「会ったら何かしたいとかはないんだ」
いもしない恋人に会いたいようなものなんだ、と俺から視線を外し拓己が呟いた。
生き別れた兄弟か…俺には晴くんがいるけど拓己の気持ちはよく分かる。
「会いたいよな…」
拓己の部屋からの帰り道、誰に話すでもないのに声に出していた。
俺には一緒に暮らす兄がいる、ただの事実なのにそれが嬉しい。
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