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第70話
side深雪
私は意識を取り戻した後、人形のように過ごした。
医師、看護師、友人達、誰の言葉も私の心までは届かなかった。
生きることに絶望し、だが死ぬ気力すらない。
生きながら死んでいるようだった。
ある日、看護師が私に赤ちゃんを会わせた。
にこにこと私に無邪気な笑顔を見せる。
小さな手が私の指をぎゅっと握った。
「…可愛い」
花が咲いたような笑顔を見て、死んだ妹を思い出した。
「満流…」
「…満流さんの忘れ形見です…」
はっとした。
満流は命を失うその瞬間まで懸命に生きて次の命を誕生させたのに!
私は何をしているんだ!
事故の後、私は初めて声をあげて泣いた。
事故にあって、私と満流の子、兄の結婚相手、その姉の子、4人が残された。
私は独身、兄の結婚相手の姉も独身だった。
そして満流の夫は健在だったが妻を失ったショックが大きくとてもじゃないが子供は引き取れないということだった。
幸い私は働いていて収入もあり、子供達を引き取ることにした。
保育園を利用すれば何とかなるし友人達も助けてくれるだろう。
子供達を私の生きる希望とした。
退院が近くなり、兄の結婚相手に会いに行った。
彼もまた深く傷ついていた。
私と同じように、生ける人形だった。
私は子供達を引き取り、自分の希望として育てる意を彼に伝えた。
彼は静かに私の言葉に耳傾けた。
そして彼はこう言った。
「僕も彼らを希望にしてもいいでしょうか?」
「…もちろんです…」
こうして私は優さんと結婚し、子供達の母親となった。
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