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第5話 『直×拓編』

side拓己 裏切られたような気持ちに支配され、衝動的に階段をかけ下りる。 (嘘だ、嘘だ!ウソだー!!) 信じたくないが、心のどこかで“やっぱり”と思う自分も確かにいた。 学校で、しかも教室でしか会えない。 手を繋いでもすっと離され、キスをする隙もない。 (抱きついたって抱き返してくれてこと…ない…。わかってたよ…!) 一階までかけ降り、目の前のドアから外へ出た。 息が苦しい。 体の中の酸素が足りない。 足が縺れる。 自分は何処にむかってる…? 急に強い力で右手首を掴み上げられた。 「拓己……いや、安堂…ゴメンな」 現実に戻される。 「ゴメンって、なんだよ!」 俺の気持ち全てが否定されてしまった! 「今さらそんな事言うなんて…!」 「ちょっと待てって、落ち着いて…」 「手を離してよ!」 掴み上げられた手を振り切った。 「もう…放っといて…」 最後は言葉にならず涙を隠すようにしゃがみこんだ。 伸ばしてきた手はオレにたどり着くことはなく、その温もりを感じることはなかった。 先生は…オレに背を…向けた。 悔しいのか、悲しいのか…涙が止まらない。 本当に好きだったのに、きっと迷惑だったんだ。 先生もオレのことが好きだって…勝手に思ってた。 でも…一度も言われていない。 好きだって…。 (もう全てどうにでもなってしまえ…) オレなんて、オレなんて…だれにも好きになってもらえないんだ。 …誰にも相手にされないんだ…! 声をあげて、泣いた。 大きな悲しみの濁流の中で、オレの手を引いてくれたのは…凪だった。

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