95 / 179

第14話 『直×拓編』

side直樹 入学式までまだ数日ある。 特にすることも入れ込む趣味もないから参考書片手に勉強ばかりしていた。 …たまには出掛けるか…。 散歩がてらノートを買いにぶらぶらと駅前に出掛けた。 (晩飯の買い物もついでに…) 父親と二人きりの男所帯、毎日とはいかないが簡単なものなら自炊もする。 通りかかった駅に隣接するコーヒーチェーン店からコーヒーの香りが漂う。 人を惹き付ける複雑で豊かな香りに足止めされた。 店内はコーヒーを楽しむ客で賑わっていた。 店の奥はボックス席があり、またそれとは別に通りを眺めるようにカウンター席がある。 だが通りに向かって席が用意されているのにどの客も人通りには無関心だ。 誰かと待ち合わせするのならともかく… 自分一人で入ることのない店…。 そんな事を考えていたら目の前でコーヒーショップに飛び込んだ人物がいた。 そんなに慌てて…どうして?……つい、目が追う…。 その人は周りを見ることなくカウンターで注文し、俯いたまま通りに対面した端の席に座った。 通り添いの窓から店内に視線を向けると… …晴海くん…。 悲痛な面持ちでじっとカップを見つめるその人は三年ぶりに出会った幼なじみだった。 (どうしたんだろう…) なんだか今話し掛けなければいけないような気がして店に入った。 アイスコーヒーを注文し、晴くんのいる席に行った。 「晴海くん?」 無防備に向けた背中が跳ねあがった。 振り返るその顔は怪訝な顔をしていた。 …だが… 「…直樹…?」 見上げてくる瞳は俺が誰だかわかると人懐こく目を細めてみせた。 「ずいぶん大きくなったね」 「何年前と比べてるの?」 晴くんは久しぶりに会う親戚のようなことを言う。 「全くだ。確か凪と同い年だったよね?」 「ああ、あいつ。そうだね」 「凪といい直樹といい、背が高くて羨ましいよ」 「そんなにいいことばかりじゃないよ」 そう答えて晴くんの隣に座った。 さっきまでとは雰囲気が違う。 相変わらずの気遣い…。 そんな風だからあんな辛そうな顔をするんだ。

ともだちにシェアしよう!