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第28話 『直×拓編』

side拓己 十日間の夏期講習の間、毎日凪と講義を受けた。 初日は睡魔に負けてしまったが、翌日からは寝ずに勉強した。 全てが理解できたらよかったんだけど…解らないところは凪に教えてもらってなんとか頑張った。 …それなのに…。 『好きな人がいる』 講習十日目、凪にそう告げられてショックだった。 やっぱり“あの人”のことなんだろうな。 セックスで体は繋がっていたけど心までは…。 好きとか一言も言ってないし…。 どちらかといえば僕が一方的に体の関係を結んだ。 凪は優しいから断らなかっただけ…。 講義が終わり、初日に入ったハンバーガー店の同じ席で同じものを…一人で食べた。 この間より少ししょっぱい味がした。 手の甲で顔を擦り、オレンジジュースに浮かぶ氷をストローで混ぜる。 溶けながらくるくると回る氷を眺め、ため息をついた。 「君、一人?待ち合わせしてるの?」 隣に座っていた30代位のサラリーマンとおぼしき男が話しかけてきた。 「…いえ…」 「それなら僕と、どう?」 どうって… 「…あの…」 「僕とゆっくり話でもしようよ」 強引に腕を掴まれる。 「…いや…待って…」 焦って相手を躱せない。 「俺、そうゆうんじゃないんです…ひっ…」 肩をぎゅっと抱かれ、ぞわっとした。 「まあまあ、いいじゃない」 店の外まで連れ出されてしまった。 「違うって…!」 「おい!あんた!」 俺と男の間に若い男が割って入った。 「嫌がってんだろ。離せ」 「君は関係ないだろ。口を挟まないでくれ」 「ああんっ?行くとこ行ってもいいんだぜ」 ちっ、と舌打ちしてようやく男は去って行った。 「助かった」 「お前、もっとはっきり断れ」 振り向いてそう言い放ったのは橋本直樹だった。 上から見下すような発言をするこの男の言葉に俺はカチンときた。 いつもだったら売られた喧嘩は買うんだけど…。 「…うん…」 「じゃあ、気を付けろよ」 「あ、ちょっと…」 呼び止めちゃった…! 「…何だよ」 「俺、拓己。オマエは?」 本当は名前知ってるけど…。 ヤツはちょっと考えてから 「…直樹だ。変なのに捕まるなよ」 そう言って後ろ手に手を振って人波に紛れていった。

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