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第29話 『直×拓編』

side直樹 駅前の量販店で買い物をするために外出した。 プリンタートナーとコピー用紙、それから…何だっけ? 日中はクーラーの効いた部屋にいたせいか夏の午後の暑さを見くびっていた。 だりぃ…他の買い物が思い出せない…。 もう帰る、いや今すぐ帰る…帰らせて…。 ファーストフードの店でいいから少し涼んで帰ろうか…引き寄せられるように店の前に来た時、揉めているような会話が聞こえた。 喧嘩かナンパか…痴話喧嘩?あれ?男同士じゃん。 綺麗な顔をした中学生位の男がサラリーマンに連れ出されようとしている。 『違うって…!』 合意じゃない、無理矢理だよな? いつもなら放っておくのに…咄嗟に声をかけていた。 「おい!あんた!」 背中越しに庇うように二人の間に割って割り込んだ。 「嫌がってんだろ。離せ」 「君は関係ないだろ。口を挟まないでくれ」 …んなことわかってるよ! 「ああんっ?行くとこ行ってもいいんだぜ」 ちっ、と舌打ちして男は去って行った。 はんっ!ふざけんな! 「助かった」 後ろからの声に振り向いた。 「お前、もっとはっきり断れ」 気が強そうに見えるけど…大人しいな…。 「…うん…」 …俯いてうん、って…かわいいじゃん。 「じゃあ、気を付けろよ」 男に可愛いって…ヘンだよな…。 「あ、ちょっと…」 「…何だよ」 「俺、拓己。オマエは?」 オマエ呼びかよ…生意気なヤツだ。 「…直樹だ。変なのに捕まるなよ」 俺は拓己に背を向けて家に急いだ。 ああ、暑い。 汗が首筋を伝う。 でも、気持ちよく帰れる。

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