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第30話 『直×拓編』

side直樹 冷蔵庫から取り出したアイスバーを口に咥え、リビングで一息つく。 …拓己か…。 アイスに舌を這わせて冷たさを楽しむ。 あいつ…初めて会ったような気がしなかった…。 拓己の顔が頭にチラつく。 …どこかで…会ってる? エアコンが効いているとはいえ室温は高く、アイスの表面が溶け始めている。 駄目だ…思い出せない。 ガリッとアイスを齧った。 喉を滑り落ちる甘い塊は僅かばかり体の熱を奪いながら溶けていく。 はあ、と冷たいため息がでた。 綺麗な顔をしてあんなに隙だらけで大丈夫だろうか? …あんな男に言い寄られ…躱すことさえできないのに。 「あっ」 飽和状態になった白い滴が流れ落ち右手を濡らす。 今日は親父が珍しく早く帰ってくるから久しぶりに夕食でもつくろうか…。 …それとも… …まだ残る熱を出してしまおうか…。 小さくなったアイスを全部口に含んだ。 自分の中に燻る小さな熱…。 ゆっくりと立ち上がりバスルームに向かった。

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