116 / 179

第35話 『直×拓編』

side拓己 ちょっとだけ気まずい思いはあったけど…また凪と会っている。 ああいう事はもうしないけど、凪はいい奴だから友達として付き合っていきたいと思った。 「凪、ちょっと手をかしてよ」 不意に思いついた事だが、予想外の重量に助けを呼んだ。 収納ボックスが重い。 凪はいとも簡単に棚から引き出して床に置いてくれた。 「見た目通り重くて」 久しぶりに開けたボックスには、セピア色に変色した紙箱に紙類と共に懐かしい物が納められている。 「確かこの中に…」 子供の頃何かの拍子に見つけたアルバム…。 粘着シートに貼ってシールで蓋をする古いタイプのもので、傷んで端がめくれてきている。 中を開くと一面子供の写真だった。 「うわ、懐かしー」 「赤ちゃんじゃん、覚えてないだろ」 「そういやそうだ」 生まれたてから歩き始めた位のものが何枚も貼られている。 「子供二人でうつってる写真が多いね」 そう、このアルバムに写っている子供は二人。 その子達は顔の表情や造りが似ている。 なぜなら… 「俺、双子なんだよ」 「え?誰と?」 「日本語!おかしいよ?」 自分でおかしと言っておいて…凪だけじゃない…オレだってその子が今どこにいるか知らない。 「うん、凪の思っていることは半分位あってるよ」 「…ゴメン…」 「違うし。生きてる、多分」 アルバムをパラパラ捲ると、オムツを着けて走っている写真で終わっている。 「ここで終わり」 「双子のもう一人はどうしてる?」 「さあ」 「え!そうゆうもん?」 「二歳位までは一緒にいたらしいんだけど…」 両親が離婚して母親がオレを引き取っていった。 だが、当時赤ちゃんだったオレには父親の記憶も弟の記憶もあるわけ無い。 「別に会いたいってこともないんだけど…」 「双子なら拓己の写真で探せば?」 双子といえば普通はそっくりさんだよね。 「二卵性らしいから…似てないかも…」 顔は手がかりにならない…。 「お母さんに聞いてみたら?」 「聞いたことあるんだけど、黙ってるだけでさ」 …やっぱり思い出したくない、のかな…。 「親戚とかいないの?」 「近くにいるはずだけど…小さい頃行ったきりだからわからない」 今まで、母親と二人で生きてきた。 誰かを頼ることもなく、何かにすがることもなく。 「会ったからって…何かしたいとかはないんだ…」 ただ…居もしない恋人に会いたいような…その存在に焦がれるだけ…。 「俺に出来ることがあれば言ってよ」 力になるよ、と凪が嬉しい事を言って帰った。 凪に会って、直樹と出会って…今頃弟の事を思い出した…それだけなんだ…。

ともだちにシェアしよう!