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第38話 『直×拓編』
side直樹
拓己の携帯に連絡を入れながら家に向かう。
携帯の応答がないまま家の呼び鈴を鳴らすがこちらも反応がない。
家にもいないのか…。
玄関前付近にいつまでもいることも出来ず、駅に戻って近くのファストフード店に入った。
仕方ない、ここで拓己の連絡を待つか…。
携帯を取り出し画面を見た自分の視野に待ち人が映り込んだ。
拓己…。
「どうしたの…?」
振り返る瞳には涙の跡があった。
「あ…ゴメン…そうだ、時間…」
俺の顔を見て約束を思い出したのか、拓己が慌てて席を立とうとテーブルに手をついた。
「あっ!」
その手は飲みかけの紙製カップを押し倒した。
運悪く蓋が外れ、飲み物が拓己のジーパンを濡らす。
「やっちゃった…冷て~」
「あ~もう、何やってんだよ」
あたふたと無駄に動き回る拓己を尻目に、近くにいた店員に声をかけて片付けてもらった。
お礼を言って店を出る。
屋外は日差しが刺すように降り注ぐ。
この気温なら濡れたジーパンもすぐに乾くだろう。
俺はそう思ったが拓己は違った。
「オレ、着替えたい…家に帰っていい?」
ま、普通はそう言うよ。
拒否する理由もないので二人で拓己の家に向かった。
「悪い、ベトベトするからシャワー浴びる。待ってて」
「了解」
拓己の部屋に一人残された。
何の気なしにベッドで寝転んだ。
寝てみてわかる、いいベッドだ。
スプリングが優しく体を支えてくれる。
拓己を探し回ったからか目蓋が重い。
ちょっとだけ…
気を抜いた途端に眠り込んでしまった。
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