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第51話 『直×拓編』

side直樹 「親父、話がある」 「珍しいな」 親父は重そうな黒い鞄をキッチンの床にドンと置いた。 時刻はそろそろ11時になろうとしている。 自他共に認めるハードワーカーである親父の帰宅時間はいつも遅い。 しかも休日も曖昧だ。 早く休ませてあげたいが…今日どうしても聞いておきたい。 「コレ、見つけたんだけど」 親父の部屋で探しだした写真を目の前に出す。 一目視線を寄越して、親父は口を開いた。 「それは…別れる前の家族だ」 ネクタイを緩めながら親父はそう言った。 「俺の兄貴…拓己っていうんだろ?」 一瞬驚いた顔をしたが…親父の顔が緩んだ。 「この町に帰って来て、絶対にお前達が出会うと思っていた」 …え? 「教えなくても…引き寄せ合うんじゃないかって…」 出会ってはいけない、気付いてはいけないと…そう思い込んでいた。 「拓己は直(ちか)さんが、お前の母親が連れて行った兄弟だよ」 ああ、やっぱり…。 「直樹は拓己と出会ったんだね」 「うん」 親父が俺の頭に手を置き髪をくしゅっと混ぜて微笑んだ。 「あの子も寂しい思いをしているだろうから仲良くしてあげて欲しい」 聞きたいことは聞いた、と思う。 …仲良く…。 俺、親父の思いには上手く答えられないみたいだ…。 「…わかってる…」 自分自身に言い聞かせるように呟き、俺はキッチンから出た。 自分のベッドに潜り込んで、俺は拓己とのこれからについて考えるしかなかった。

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