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第52話 『直×拓編』

side拓己 真っ暗な部屋で静かに時間が流れる。 酷く疲れているのは確かで、ベッドに横になったまま動けずにいた。 オレの誕生日…直樹と初めて迎えたその日に… …まさか…直樹が弟かもしれないなんて…。 やっと…オレを愛してくれる人に会えたと思ったのに…。 暗闇に響く音で、母が帰宅したのを知った。 顔に付いた髪を払うと、涙で顔がぐちゃぐちゃだった。 暗い窓に映るのは見せるのを躊躇う程の酷い顔… それでも、言いたいことがある。 手の平で涙を払って、足りずににシャツの裾で拭いた。 母はリビングに居た。 「母さん…」 家でもノートパソコンで仕事をしていた。 「眠ってるのかと思ったわ」 振り返らずにそう言う。 「…お帰りなさい」 正面の椅子を引いて、静かに座った。 「…何か言いたい事でもあるの?」 …オレを見ない…。 「オレ…16歳になったよ…」 「そう…おめでとう」 視線を向けず、表情もそのままで答える母。 ゆっくりと時が過ぎる…。 「…弟に…会ったよ」 「…」 言いかけて…オレを見た。 母は口をきゅっと結び… …また…視線を外す。 「…そう…」 「おやすみなさい、母さん」 胸が苦しくなってこれ以上話せない。 リビングを出て肩を落とすと、母の独り言が聞こえた。 「あの子も…16歳になるのね…」 消えそうな声だった。

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