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第61話『直×拓編』

side拓己 いつもより遅い時間に家を出て、見慣れた町並みを眺めながら歩いていた。 ようやく暖かくなってきたものの、今日は北風が強く吹いて冬に逆戻りしたようだ。 桜の花芽もまだ硬い。 雲ひとつない晴天の下、びゅうっと風が吹き抜けた。 「寒っ」 制服の襟をぎゅっと掴んで寒さに身構え駅までの道を急ぐ。 「拓己、おはよう」 改札口に定期券をかざしながら振り向くと、見知った笑顔にハグされた。 「おはようって、ちょっと改札閉まる!」 いくらラッシュの時間帯を過ぎていても、駅には多くの利用客がいる。 「迷惑かかるから!」 ぐいぐい直樹の胸を押してもびくともしない。 「今日が楽しみ過ぎる…拓己ぃ…」 オレの肩に顔を埋め、すりすりしてくる大男。 「式が終わるまで大人しく見てろよ」 背中に回されたと思っていた腕が、いつの間にか尻を撫でている…。 「家族席で、見てる」 未だにオレの制服の肩口に顎を乗せて甘えてくる直樹とは高一の九月以降、体の関係は、ない。 あの日、直樹に抱かれた後、二人で話し合った。 訳のわからないテンションでオレは涙を溢しながら話をしていたが、直樹はオレの背中をずっと優しくさすってくれた。 だが二年たった今でもオレは…いまだに答えが出せていない。 直樹とのこの関係は誰にも言えないものだから。 だから…今日、オレの卒業式が終わって直樹と二人きりになった時までに…答えを出さなければならない。

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