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第62話『直×拓編』

side拓己 静まり返った講堂で氏名を呼ぶ声が響く。 「はい」 返事をして起立する。 クラス全員の名前が呼ばれ、代表者が卒業証書を受けとるのだ。 オレのクラスは出席番号一番だからという理由でオレがその役目を担った。 校長先生からクラス全員分の分厚い卒業証書を受け取り檀上から降りた。 家族席に母の姿はない。 その代わりに他の保護者より頭一つ高い直樹がいる。 直樹はじっとオレを見つめていた。 それに気づかない振りをしてオレは自席に戻った。 花びら代わりのいろ紙が舞い散る花のアーチをくぐり抜けていく。 “式”なんてものは、儀礼的なものに過ぎないと思っていたけれど…今日はちょっと違う。 在校生達から口々にお祝いの言葉をかけられ見知らぬ後輩に制服のボタンをちぎり取られた。 アーチを抜けた先で胸に着けたバラのコサージュを天高く放り投げ、オレを待つ直樹の元へと走った。 「拓己、卒業おめでとう」 校庭の端に立つ直樹に抱きつくと、見下ろしてくるその瞳はとても優しい。 「ありがとう」 「…キスしたいけど…人目があるから。家に帰ろう」 直樹は多すぎるオレの荷物を軽々と持ち上げて先に歩きだした。 「記念品?ずいぶんとたくさんあるんだね」 「引き出物じゃないんだからバームクーヘンなんて選ぶなよって言いたい」 じゃあこれからハネムーンに行こうか、なんて直樹が冗談まじりに言うからイイねと笑って答えた。

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