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第64話『直×拓編』
side直樹
拓己は顔を真っ赤にして狼狽えている。
狼狽えながらも俺が嵌めたリングからは目を離さないでいた。
「…ホントに…オレで…いいの?」
指のリングを撫でながら…俺の顔は見ないまま…躊躇いがちに呟く。
「拓己じゃなきゃ、駄目なんだ」
俺の言葉に拓己はきゅっと唇を結び考え込むようなそぶりをしてから…ゆっくりと口を開いた。
「オレ…分かってると思うけど…すぐに泣くし自分勝手だよ」
「知ってる」
「成績も…そんなに良くないし…」
「俺とならバランスとれるだろ?」
「そこは“そんなことない”って言えよ!」
頬を膨らませて抗議する姿が愛しい。
「全部…拓己の全部がいいんだ」
俺は椅子から立ち上がり、俺を見つめる拓己の足元へかしづいて愛の言葉を囁く。
「もう、拓己のいない人生は考えられない。お願い、お嫁さんになって」
見つめ合う拓己は…文字通り固まってしまって口がわなわなと震えていた。
「…な…なお…き…」
拓己の目に涙が溜まる。
「泣かせちゃった…ね」
親指で目の縁を撫でると温かな滴が指を伝うが、すぐに拓己の表情が曇る。
「…母さんに…何て言おう…」
見つめる目から光が消えていく。
「実は…了承はもらってるんだ」
「…!?誰の?」
「父さんと…母さん」
よほど驚いたのか バン、とテーブルに両手を叩きつけて拓己は椅子から立ち上がった。
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