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第67話『直×拓編』

side拓己 「母さん…お帰りなさい」 もう何年もこんな風に声を掛けていなかったから、少しぎこちなくなってしまった。 チラッと見た母さんの顔は玄関の照明のせいか顔に陰が落ちていた。 「…ただいま」 「…えっと…ちょっと話を聞いて欲しいんだけど…」 「…いいわよ」 部屋に入り、着ていたコートを背もたれに掛けて椅子に座る。 「オレ、家を出ていいの?」 「…その事…」 大きく息を吐き、オレを見据える。 正面から母さんを見たの、久しぶりだな。 やっぱり、子供の頃より疲れているように感じる。 「…いいわよ」 「いいの?本当に?」 嬉しくてつい大声になる。 「ふふ。あなたの笑った顔、久しぶりに見たわ」 え? 母さんに言われてはっとした。 そうだ、こんな風に話をすることも無かった。 「楽しい?」 「え…う、うん」 「ずっとあなたは辛いんじゃないかと思ってた」 膝の上で指を組み、オレの向こう側にいる誰かに話掛けている、そう見えた。 「運命の片割れ…そんな風に感じたわ。私とあの人はそうじゃなかったみたいだけど」 え…? 「あの人…パパは優しすぎたの。だから私は愛されているのかわからなくなって…。双子のあなた達にまで嫉妬して。仕事も忙しくて、全部裁ち切りたい衝動に駆られて…」 膝の上で組んでいた手で顔を覆う。 「…あなた達を引き離してしまった…」 泣いてる…?母さん…。 「…ごめんなさい…」 母さんは消え入りそうな声で、確かにそう言った。

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