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第70話『直×拓編』
side拓己
部屋に帰ってから空の段ボール箱や新しく開けた日用品のパッケージをまとめて部屋を掃除していたら、あの日の直樹の言葉が突然頭に響いてきた。
『俺のお嫁さんになって』
思い出すだけで顔は赤くなり鼓動が早まる。
「暑っっつ」
立ち上がって吹き出た額の汗を袖で拭って手でパタパタ扇いでいるとエプロン姿の直樹が部屋に入ってきた。
「拓己暑いの?あ、もう片付け終わったね」
直樹の手が俺の汗ばんだ頬と首筋に触れ、ゾクッとした。
「あと少し…かな」
その手から逃れるようにしゃがんで切れ切れになったビニール紐を拾った。
「片付けるセンスがあるよね、拓己。少し早いけどご飯にしようよ」
「…うん」
オレが片付けや掃除をしている間に直樹が夕飯を作ってくれていた。
テーブルで向き合って食事をする日がくるなんて思わなかった。
「こ…こっちに座っていい?」
オレはキッチンと反対側の、そっちがよく見える席に座った。
席に着いて新婚さんのように恥じらうオレ…。
「どうぞ」
食卓には炒飯とスープ。
少し胸にくるものがあったが直樹が作ったスープを一口飲んだ。
「このスープ、マジで美味い」
「ホント?レタスってスープにすると食べやすいよね」
「…知ってたの?レタス苦手なの…」
独特のえぐ味があって食べられるけど好きじゃない。
でも…残したりは…しない。
「もしかして…母さんに聞いた?」
「わかっちゃった?この間会ったときに聞いたんだ」
他のこともね、と直樹はいたずらっ子のように笑った。
「拓己の好きな炒飯となら食べられるかなって」
俺の為に…?
「直樹が用意してくれたものなら何でもたべるよ!」
例え嫌いなものでも。
「言質はとった。好き嫌い克服しようね」
爽やかに微笑む直樹だがある程度覚悟しておいた方がよさそうだ…。
「…お手柔らかに…」
そうは言ってもきっと直樹はオレの嫌な事はしないだろう、絶対に。
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