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第162話

「失礼だが…桜井くんのお父さんは何をなさってるのかな?」 僕は興味本位でプライバシーに関わる質問をしてしまった。 「えっ…」 彼は酷く困ったような顔をして、それでも僅かばかり微笑んで答えてくれた。 「僕は父の顔も名前も知らないんです」 「あ!…ごめん!失礼な事を聞いてしまって」 「いいんです。実の母は子供の頃に亡くなっていて父については何も聞いてないんです」 思ってもない答えに僕は少なからずショックを受けた。 「晴海、答えなくていいよ。父さん、晴海に失礼だろ」 直樹の言う通りだ。 「本当にごめんね」 「いえ、大丈夫です。失礼します」 晴海君は僕がプライバシーを侵害するような事を聞いても嫌な顔もせず笑顔で答えてくれた。 だがその笑顔で僕はさらに申し訳ない思いでいっぱいになった。 その代わりに弟君には嫌われてしまった。 店を出る時ジロリと睨みをきかされた。 「…お父さん、えっと…また…」 おずおずと僕に近寄るもう一人の息子。 「あぁ、今度は家においで。拓己」 拓己とは本当の親子なのにまだぎこちなさが残る。 「ほら、行こう拓己」 直樹に急かされ、拓己は僕に気遣ってひらりと手を振って店を出て行った。

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