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第163話

彼、晴海君は多分“彼”の息子だろう。 聡明で優しくて、見た目も…“彼”とよく似ている。 “彼”とは数回程そういう関係を持ったが、一方的に別れを切り出されてしまった。 「君の事は好きだ。でも、これ以上付き合う事は出来ない」 突然そう告げられた。 納得できる理由がない。 僕は“彼”と別れたくなかった。 何度も“彼”の元へ行って、もう一度考えて欲しいと訴えた。 でも、“彼”の意思は変わらなかった。 理由を聞いても酷く曖昧で僕はとても傷ついた。 僕は“彼”にあいそを尽かされるようなことをしでかしたのだろうか。 眠れない日が続いた。 それからしばらくして、僕は一人の女性と結婚し、双子の息子を授かった。 彼女は僕のことをとても好いてくれていた。 だが… 「どうして上手くいかなかったんだろう…」 冷めてしまったコーヒーを啜ると今まで口に出せなかった思いがついて出た。 子供達が生まれて夫婦関係がギクシャクし始めた。 するとあっさりと離婚することが決まり、彼女は拓己を連れて出て行ってしまった。 関係が悪化してもお互いに感情的になる事はなく、彼女とはいろいろと話し合って今でも必要とあれば連絡を取っている。 「感情的にならなかったんじゃなくて…なれなかったのかな…」 “彼”から別れ話を切り出された時には別れたくないと随分食い下がったのに。 「ふふ、今さら分かっても…ねぇ…」 もう、全てが間に合わないのに。

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